はげし)” の例文
はげしく手真似をして叫びかはす群が忽ちドルフの周囲まはりへ寄つて来た。中に干魚ひもののやうな皺の寄つた爺いさんがゐて、ドルフの肩に手を置いた。
奥のかたなる響動どよみはげしきに紛れて、取合はんともせざりければ、二人の車夫は声を合せておとなひつつ、格子戸を連打つづけうちにすれば、やがて急足いそぎあしの音立てて人はぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二洲がかくの如き小疵瑕せうしかの故を以て山陽を逐つたのでないことは言をたない。又しや二洲の怒がはげしかつたとしても、其妻なほは必ずや姉の愛児のために調停したことを疑はない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
自分の思郷病しきやうびやうます/\人目に附く迄はげしく成つた。其れで土地がかはれば少しは気の紛れる事もあらうと良人をつとに勧められて不順な天候の中に強ひて独墺及び和蘭陀ヲランダの旅を思ひ立つのであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その頃ろ正岡君が歌に関する議論の変化ははげしいもので走馬灯のようでした、昨と今とは全然違うという調子で、議論主張は変るのが当然である、終始一貫などと詰らぬことだというて居られた。
子規と和歌 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「豊、豊!」と老婢を呼ぶ声はげし縁続えんつづき子亭はなれよりきこゆれば、ぢきに走り行く足音の響きしが、やがて返しきたれる老婢は客間にあらはれぬ。宮は未だかしらを挙げずゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
人に接してひて語り、強ひて笑ひ、強ひて楽まんなど、あな可煩わづらはしと、例のはげしくちびるみて止まず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)