刻込きざみこ)” の例文
そのひたいには、この世のものとも思われぬ、激しい苦悩のたてじわ刻込きざみこまれ、強いてこらえる息使いと一緒に、眼尻から顳顬こめかみにかけての薄い皮膚がぴくぴくとふる
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
はゝは、ちゝが、木像もくざうどう挫折ひしをつた——それまたもろれた——のを突然いきなりあたまから暖炉ストーブ突込つゝこんだのをたが、折口をれくちくと、内臓ないざうがすつかり刻込きざみこんであつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ああ、その顔は、いつもの皮肉なしわが深々と刻込きざみこまれ、悪鬼のようにゆがんでいた。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
幹事雑貨店主のえた声が、キヤキヤと刻込きざみこんで、響いて聞えて、声を聞く内だけ、その鼻のたかい、せて面長おもながなのが薄らあおく、頬のげっそりと影の黒いのが、ぶよぶよとした出処でどこの定かならぬ
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかもポンコツの苦しみというよりも其の首だけ仮面マスクのような顔には何を見たのかゾッとするような恐怖の色が刻込きざみこまれているのでした。とその時私はいやあなものを見てしまったのです。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)