なかだか)” の例文
って御覧ごろうじろ。」と橋の下を抜けると、たちまち川幅が広くなり、土手が著しく低くなって、一杯の潮はなかだかあふれるよう。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その優しく愛らしく、ちと塵滓じんしを留めざる美しさは、名匠ラフアエロが空想中の女子の如し。烏木こくたんの光ある髮は、美しくなかだかなる額を圍めり。深黒なる瞳には、名状すべからざる表情の力あり。
殊に人立の中のこと、へこまされたつら握拳にぎりこぶしなかだかになってあらわれ、支うる者を三方へ振飛ばして、正面から門附の胸をつかんだ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右の一軒家の軒下に、こう崩れかかった区劃石くぎりのいしの上に、ト天をにらんだ、腹の上へ両方のまなこなかだか、シャ! と構えたのはひきがえるで——手ごろの沢庵圧たくあんおしぐらいあろうという曲者くせもの
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たらたらとうるしのような腹を正的まともに、こうらに濡色の薄紅うすべにをさしたのが、仰向あおむけにあぎと此方こなたへ、むっくりとして、そして頭のさきに黄色く輪取った、その目がなかだかにくるりと見えて
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ゆびさしたのは、蜘蛛くもの間にかかって、一面うるしを塗ったように古い額の、胡粉ごふんが白くくっきりと残った、目隈めぐまの蒼ずんだ中に、一双虎いっそうとらのごときまなこの光、なかだか爛々らんらんたる、一体の般若はんにゃ
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)