円々まるまる)” の例文
つい二、三年前までは、あんなに円々まるまると肥って紅にかがやき、求婚者の噂をしたり、つまらぬことにも笑い転げたりしたのに。……
発達した四肢、脂肪づいた体——乳房などは恐ろしく大きいのであろう、帯の上が円々まるまると膨らんでいて、つい手を触れたくなりそうである。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
円々まるまると肥えた顔に細い目がいてゐるので、いつも膃肭臍おつとせいのやうだとばかし思つてゐたが、今見ると何とかいつた芝へんの女医者によくてゐる。
その顔は病人らしく蒼白あおじろいが、思ったよりも肥えて頬などが円々まるまるとしている。近いころ髪を洗ったと思われて、ぱさぱさした髪を束ねて櫛巻くしまきにしている。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
片肱を白襯衣しろしゃつの肩へ掛けて、円々まるまるしいあごを頬杖でもたせかけて、何と、危く乳首だけ両方へかくれた、一面にはだけた胸をずうずうとゆすって、(おお、辛度しんど。)とわざとらしい京弁で甘ったれて
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何かに紛れてランプ配りがおそくなった時などは、もう夕闇が隅々へ行渡って薄暗くなった此の部屋の中に、机に茫然ぼんやり頬杖をいてる雪江さんの眼鼻の定かならぬ顔が、唯円々まるまる微白ほのじろく見える。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
十六、七歳かと思ったら、どうやら二十歳を二つ三つ越しているらしく、疲れている色はあったが、頸のあたりなどは脂ぎって円々まるまるしていた。——女は続いて、立派な毛皮の外套の釦を外そうとした。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
赤ン坊は抱かれながら円々まるまると肥った顔をニコニコさせていた。
愛の為めに (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
円々まるまるとしたよい月夜で家々の屋根も往来も、霜が降りたように蒼白い。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ステッキ掻寄かきよせようとするが、すべる。——がさがさとっていると、目の下の枝折戸しおりどから——こんなところに出入口があったかと思う——葎戸むぐらどの扉を明けて、円々まるまると肥った、でっぷりもの仰向あおむいて出た。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)