其女そなた)” の例文
なるべく途中まででも送ってやりたいが、そういう訳だから、其女そなたが先に立つとすれば、一人旅をせねばならぬが、それでも、よいか。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「政子か。ここへかけるがよい。……何、べつにこれまで呼ぶ程の用でもないが、誰もおらぬ所のほうが、其女そなたもよかろうと思うてな」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうだ、其女そなたが十六の春、お父上の十太夫殿も、家族もあらかた、花見に出て留守だった。其女そなた風邪かぜの床に、瞼をらして寝ておった。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「でも、ばば殿も、今では其女そなたにやさしゅうしてくれる様子。何よりも、武蔵は欣しい。静かにやまいを養って、其女そなたも幸せになってくれよ」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——が、其女そなたにも、健在な両親がある。わしにとっても、同様に、大事なお舅姑方しゅうとがただ。わしはおまえに負けないで孝行を尽してあげる」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「驚いたも無理はない。ちと其女そなたに重い役目がいいつけられる御様子だ。——と、申しても、この兄も共に致すこと、そう案じるに及ばん」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「嘘だろう。……そんなことも頭にうかんだかも知れぬが、其女そなたには、もっと必死に考えつめていることがあるはずだ」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれはいつぞやそれと其女そなたからささやかれた時も、何の顔いろもうごかしていなかったように信じていた。自分のした事を、おまえの欣しそうな顔を。
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其女そなたのような、あどけなくて、美しい処女おとめは、ちょうど、夏の夜の虫を焼く絵行燈えあんどんのようなもの——に罪はないが、焼かれる虫にも無理はないのだ。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其女そなたの一ぴんしょうを、みな自分勝手に受け取って、独りで恋をし、独りで悩み、独りで迷い、揚句あげくの果に——又これからも、生涯独りで彷徨さまよい出そうとしている
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やがては、ひとつ家庭に、其女そなたも共に住むことになるが——良人の世話は第二でよろしい。母上の孝養を、母上のおよろこびを、第一としてかしずいてもらいたい」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さだめし其女そなたは嫁ぐ日までの教養として、貞婦ていふかがみとなるよう、おしゅうとどのからも、やかましい庭訓ていきんを数々おしえこまれておろうが、この良人は、そう気難しゅうはない。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
切ろうかと一度は思ったが、何としても、何としても其女そなたや幼い和子さま方のお身が気がかりでな……
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あっ。では其女そなたは……ここの土中に葬られている大機という者と……何か有縁うえんのあいだがらだの」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『そうして、一日一日でも、親に為した不孝の罪を償うのが、せめて其女そなたのとる道ではないか』
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……ゆるせ。ゆるしてくれい。無情つれない者が、必ずしも、無情つれない者ではないぞ、其女そなたばかりが」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さすがに義朝を、うつつにさせた其女そなたの容色も、あわれや、見るかげもなくやつれたなあ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今の父さんには内密じゃが、前の良人弥右衛門様が、いくさで傷を負うた時、御主君からいただいたおかねのうち、青ざし一貫文だけは、其女そなたが嫁入りのしろにと思うて取ってある。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『はははは。——イヤそう思って居てもよい。其女そなたの出て行く出て行くもこれで何度か』
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ははは。なんで其女そなたと、奉行所の任免と、かかわりがあるものか。左右太の免役は、越前守様と、意見たがいのことから起ったものらしい。なあに、そのうちにまた、復職するさ」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「父さんは、ああいう人じゃでな、あてにはならぬが、日吉もやがてよい若者になる程に、そしたら其女そなたも、嫁入りさせよう。……だが、この母を見ても、良人おっとはよくよく選ばぬと」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さ、おはいんなさい。只今この下で、短銃の音がしたが、あれは其女そなたではないか」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぜひもない。この上はせっかく其女そなたをおおすめしたご当家に対しても、紋太夫の立場がない。立ち帰って、そなたの母を責め、母の口から、ものをいわすぞよ。老いたる母に、憂き目を
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、真面目にさ。こう見ていると、どうして、其女そなたもなかなか捨て難い」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしは、いつだって、酒の酌などに、其女そなたが出るのをよいことだとは思うていない。しかし、ここの住持は世間人だ、見識をもって、領主に対し、寺の尊厳を維持してゆく力などはない人だからな。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それやあ、どっちでも、其女そなたのいいようにするがよいが」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なぜ其女そなたの父は、侍の妻になるなといって死んだのか」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さて、よほど親しい間だの。其女そなたの父か」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)