估券こけん)” の例文
糟谷かすやはいよいよ平凡へいぼんな一獣医じゅうい估券こけんさだまってみると、どうしてもむねがおさまりかねたは細君であった。どうしてもこんなはずではなかった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この頃は二子ふたこの裏にさえ甲斐機を付ける。斜子の羽織の胴裏が絵甲斐機じゃア郡役所の書記か小学校の先生みていて、待合入りをする旦那だんな估券こけんさわる。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
わずか十六歳の牛若さま一人を、六波羅の威勢をもっても捕まらないとなると、これは估券こけんにかかわるからな。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水打った格子さきへ、あの紫がすそをぼかして、すり硝子がらすあかりに、えりあしをくっきりと浮かして、ごらんなさい、それだけで、私のうちの估券こけんがグッと上りまさね。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老舗の估券こけんをおとすまいとしているが、梅園の汁粉に砂糖の味のむきだしになったを驚き、言問団子に小豆の裏漉しの不充分をかこつようになっては、駒形の桃太郎団子
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
無理な出世のむくいよなんどと。白い眼をされ舌さし出され。うしろ指をばさるるらさ。御門構えの估券こけんにかかわる。そこで情実、権柄けんぺいずくだの。縁故辿たどった手数をつくして。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
で、今日の先輩諸士を見ると、青年に鎗込やりこめられると自己の估券こけんが下がる様に思って、墻壁しょうへきを設け、自ら高うして常に面会する事を避けている。これは実に愚の至りであると思う。
だからお客よりも馬鹿で浮気な方がよい。理につんだ事が好きならば芸妓にはしゃがしてもらいにきはしない。そこで、浮気なのはよいが、慾に迷えば芸妓の估券こけんは下ってしまう。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「うふっ。相変わらず口がうまいよ。もうこりごり。よりをもどそうの何のと、味なことはいわないでおくれよ、あたしみたいな素寒貧すかんぴんの女を相手にしちゃあ、磯五様の估券こけんにかかるじゃあないか」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
……そこで一頃ひところは東京住居ずまいをしておりましたが、何でも一旦いったん微禄びろくした家を、故郷ふるさとぱだけて、村中のつらを見返すと申して、估券こけんつぶれの古家を買いまして、両三年ぜんから、その伜の学士先生の嫁御
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雷横もいうまではなく、官の与力、估券こけんにかかわる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)