仁清にんせい)” の例文
それからその前お茶の手前が上がったとおっしゃって、下すったあの仁清にんせい香合こうごうなんぞは、石へつけてこわしてしまうからいいわ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
それだけに、母子おやこのすがたは、鮮やかに、浮いて見えた。佗びた茶室のなかに、ふたつの仁清にんせい茶碗ちゃわんでも置いてあるようだった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先日せんじつ歳暮せいぼまゐつたらまつうめ地紋ぢもんのある蘆屋あしやかま竹自在たけじざいつて、交趾かうちかめ香合かうがふ仁清にんせい宝尽たからづくしの水指みづさしといふので一ぷく頂戴ちやうだいしました。
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
どの個人作家が美において民衆を凌駕りょうがし得たであろう。ある人はあの仁清にんせいの存在を日本の栄誉として激賞する。彼の功績が無であると誰が敢えて云おう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
永楽から我々は、もう一つ別の清水の陶工蔵六ぞうろくを訪れたが、ここで私ははじめて、仁清にんせい、朝日その他の有名な陶器の贋物が、どこで出来るかを発見した。
なお個人作家としては仁清にんせい乾山けんざん木米もくべい等もっとも崇敬の的となり、好事家こうずか識者の間に重きをなしております。
近作鉢の会に一言 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
忽ちのうちに金に詰まり初め、御書院番のお役目の最中は、居眠りばかりしていながらに、時分を見計らっては受持っている宝物棚の中から、音に名高い利休の茶匙ちゃさじ小倉おぐらの色紙を初め、仁清にんせい香炉こうろ
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
京の仁清にんせい色絵いろえ柿右衛門かきえもん、みな一派の特長がある。この山からだす色鍋島は、こう行くよりほかに道はないぞ、と彼はよく弟子の枯淡こたんになるのを叱りつける。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この意味で「仁清にんせい」の色もの、模様入の茶盌の如きは、「茶」から一歩も二歩も後退したものといってよい。茶人は「刷毛目はけめ」を愛し、そこに無量の味いを見た。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この宗和は仁清にんせいを引き立てた人だという事であります。仁清に往々宗和の箱書があります。この字を宗和が書いたということは証明しておりませんが、そういう所が茶人だと思います。
書道と茶道 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
今日まで絵附のものと云えば、あるいは仁清にんせいとか、乾山けんざんとかを好んで歴史に語る。そうしてこれらの行灯皿に至っては語る者が誰一人ない。だが両者の間にそれほどの差違があろうか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼の価値はほとんどすべて絢爛けんらんたる赤絵あかえに集中しているではないか、もしその作に絵画的要素がなかったら柿右衛門の存在はなかったであろう。あの仁清にんせいもまたこの例に洩れることができぬ。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)