世間体せけんてい)” の例文
旧字:世間體
大学は世間体せけんてい最高学府といふ事にはなつてゐるが、誰一人この女中程上品な口を利かなかつたし、それに揃ひも揃つてお喋舌しやべりが過ぎた。
竜之助の剣術ぶりは、かたの如く悪辣あくらつで、文之丞が門弟への扱いぶりはやわらかい、その世間体せけんていの評判は、竜之助よりずっとよろしい。
証文通り日本橋の欄干を逆立ちをして渡ると聴いて、——そんな無理なことをして、世間体せけんていも恥かしいし、万一の間違いがあってはいけない。
ところがこっちには世間体せけんていがあり、向うにゃそんなものがまるでないんだから、いざとなるとかないっこないんだ。解ったかね
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世間体せけんていの武士道……人間のまごころを知らぬ武士道……鳥獣の争いをそのままの武士道……功名手柄一点張りの、あやまった武士道であったぞ。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
世間体せけんていから見て君がいわねばならないことではなく、君のいいたいことをいえ。どんな真実でも見せかけよりはまさる。
オットーはクリストフの独立不覊ふきを以前ほど面白く思わなかった。クリストフは散歩中厄介な道連れだった。彼は少しも世間体せけんていをはばからなかった。
自分へことさら好意を持たない弘徽殿の女御の一族に恋人を求めようと働きかけることは世間体せけんていのよろしくないことであろうとも躊躇ちゅうちょされて、煩悶はんもんを重ねているばかりであった。
源氏物語:08 花宴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
納屋なやで稲をいでいたのであったが、父親が、おもんがめるのをかずに出て行ったらしい気配なので、世間体せけんていなどを考え、どうしても引き止めなければならないと思って庭へ出て来た。
山茶花 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
先づ世間の眼からは賢夫人とも呼ばるべき令閨さいくんとの間は、世間の眼には如何でもなく、むし世間体せけんていは至極平和な家庭であるが、此の令閨が理想に勝つてゐる丈け其れ丈け那処どこか情愛が欠けてゐるので
未亡人と人道問題 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
「気をつけて下さい。世間体せけんていがあります」
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もとより世間体せけんていの上だけで助かったのですが、その世間体がこの場合、私にとっては非常な重大事件に見えたのです。)
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手前共の店に居ります娘たちのうちで一番お嬢様によくておりますツル子と申します女優の落第生を、山木さんの処へ換え玉に入れて世間体せけんていをつくろいまして
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もっとも逆上は気違の異名いみょうで、気違にならないと家業かぎょうが立ち行かんとあっては世間体せけんていが悪いから、彼等の仲間では逆上を呼ぶに逆上の名をもってしない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼には世間体せけんていの好いばかりでなく、実際ためになる親類があって、いくらでも出世の世話をしてやろうというのに、彼は何だかだと手前勝手ばかり並べて
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「なにくれるものなら、催促してもらったって、構わないんだが——ただ世間体せけんていがわるいからね。いくらあの人が学者でもこっちからそうは切り出しにくいよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが世間体せけんていの好い御世辞おせじと違って、引き留められているうちに、上っては迷惑だろうという遠慮がいつの間にかくなって、つい気の毒だから少し話して行こうという気になるのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)