不粋ぶすい)” の例文
旧字:不粹
「許せ許せ。先程の約束を果せと言うのであろうが、わしは至って不粋ぶすい者でな。女子おなごをあやす道を知らぬのじゃ。もうあやまった。許せ許せ」
子持縞こもちじま布子ぬのこを着て、無地小倉の帯を締め、千住の河原の煙草入を提げ、不粋ぶすい打扮こしらえのようだが、もと江戸子えどっこだから何処どっか気が利いて居ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
びッくりさせる、不粋ぶすいなやつ、ギャーッという五さぎの声も時々、——妙に陰気いんきで、うすら寒い空梅雨からつゆの晩なのである。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「けれども」とひと息ついて畠中は云った、「それが留守役に欠くことのできない資格ではない、鶴井家は同じ留守役でも不粋ぶすいぶこつで知られている。 ...
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
町内の伊勢屋のどら息子、貴賤老若、すい不粋ぶすい、千態万様、さながら浮き世の走馬燈で、芋を洗うような雑沓。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
不粋ぶすいな金五郎には、それくらいの意味しかわからないが、そんなことよりも、男役になっている女の顔に、瞬き一つせず、彼の眼は釘づけされていた。そして
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ところが、世の中のめぐり合せという奴は不思議なもので、思いがけなく、とんだ不意気ぶいきで、不粋ぶすいなことを、おまはんに聴かせなけりゃあならねえ羽目になった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
黄村先生は、そのような不粋ぶすいな私をお茶に招待して、私のぶざまな一挙手一投足をここぞとばかり嘲笑し、かつは叱咤しったし、かつは教訓する所存なのかも知れない。油断がならぬ。
不審庵 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「こいつは濡れているから肩に掛けられませんよ、——いつか手に持って歩くと、不動様の縄じゃあるめえ、そんな不粋ぶすいな恰好は止すがいい——って、親分に小言を言われたでしょう」
それに反して野暮は同義語として、否定的に言表された不意気ぶいき不粋ぶすいとを有する。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
好い芸妓になるなら世話をして下さる方を一人とめて守らなけりゃいけない。それが芸妓の節操みさおというものだ。金に目がくれて心を売ってはいけない。けれども不粋ぶすいなことはいけない。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それを悟らで、うかうかと長居したは、われらの不粋ぶすいじゃ。ゆるしてくだされ
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
不粋ぶすいな客から、芸者になったのはよくよくの訳があってのことやろ、全体お前の父親は……とかれると、父親は博奕打ばくちうちでとか、欺されて田畑をとられたためだとか、哀れっぽく持ちかけるなど
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
これこれ、若いの、そう不粋ぶすいなことを云うものではない。……そこらには、わしが贔屓ひいきの竹之丞もいる、また、曾根崎のお艶もいる、ここまで、一座を連れて来て、なんでにわかに帰れようぞ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表からずっと這入って来た男は年頃三十二三ぐらいで、色の浅黒い鼻筋の通ったちょっと青髯あおひげの生えた、口許くちもとの締った、利口そうな顔附をして居ますけれども、形姿なりを見るとごく不粋ぶすいこしらえで
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
不粋ぶすいな文句はよしなせえ。意気で生きてる芸人だよ。気は心だ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)