不体裁ふていさい)” の例文
旧字:不體裁
けれどもその大部分は支那のクーリーで、一人見てもきたならしいが、二人寄るとなお見苦しい。こうたくさんかたまるとさらに不体裁ふていさいである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三千子が山野氏の令嬢でなくて、小間使ということにして置けば、運転手と一緒になった所で、さして不体裁ふていさいではないのです。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして自分は比較する気もなく、不体裁ふていさいなる洋服を着た貴族院議員が日比谷の議場に集合する光景に思い至らねばならぬ。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
金博士の設計になるものが、未だかつて、動かなかったという不体裁ふていさいな話を聞いたことがない。
「うむ、比留間与助、知ってる、桜井なにがし、あれも名前は聞いている、それから三番目……のはどうしたんだ、白紙しらかみを頭から貼りかぶせたのは不体裁ふていさい極まるじゃないか」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あるいは議論が次第に高じて来て、罵詈讒謗ばりざんぼうに終ったかも知れない。あらゆる犯罪はんざいの多い米国のことであるから、数百の人の集まったときには随分不体裁ふていさいはあり得ることである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
客には不体裁ふていさいでも、頭から一かつこらえきれまいと、自分でも覚悟していた程だったが、帰って来た顔を見ると、何の屈託もない明るさで、しかも自分までを玄関へ出迎えさせた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんで困る、君は今川口町四十八番地へあの位な構えをして、其の上春見と人にも知られるような身代になりながら、僕は斯様こん不体裁ふていさいだ、身装みなりが出来るくらいなら君の処へ無心にはかんが
したがってお延は不体裁ふていさいを防ぐ緩和剤かんわざいとして、どうしても病室へ入らなければならなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不体裁ふていさいなる種々の記念碑、醜悪なる銅像等凡て新しき時代が建設したる劣等にして不真面目なる美術を駆逐し、そしてわれらをして永久に祖先の残した偉大なる芸術にのみ恍惚こうこつたらしめよ。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
又「なにさ、僕が斯様かよう不体裁ふていさい姿なりでまいったゆえ、君の所の雇人奴やといにんめおおきに驚き、銭貰いかと思い、しからん失敬な取扱いをしたが、それはまアよろしいが、君はまアはからざる所へ御転住ごてんじゅうで」
帰ると事がきまりさえすれば、頭を地にりつけても、原さんから旅費を恵んで貰ったろう。実際こうなると廉恥れんちも品格もあったもんじゃない。どんな不体裁ふていさいな貰い方でもする。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし彼らは兄妹きょうだいであった。二人共ねちねちした性質を共通に具えていた。相手の淡泊さっぱりしないところをあんに非難しながらも、自分の方から爆発するような不体裁ふていさいは演じなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)