上皮うわかわ)” の例文
食堂には朝餉あさげのときの卓巾クーヴェールがかけたままになっていて、茶碗の底には飲み残した少量の牛乳入り珈琲に真珠母しんじゅも色の上皮うわかわが張っていた。
老嬢と猫 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
なにもかもきれいに食べちまってさ、づけおやになるなんていっちゃあ食べて、はじめは上皮うわかわをなめ、それから半分はんぶんぺろりとやって、そのつぎには……
前足で上にかかっている菜っ葉をき寄せる。爪を見ると餅の上皮うわかわが引き掛ってねばねばする。いで見ると釜の底の飯を御櫃おはちへ移す時のようなにおいがする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平地の古い上皮うわかわを衝き抜いて、すぐに山が
人間の根本義たる人格に批判の標準を置かずして、その上皮うわかわたる附属物をもってすべてを律しようとする。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてまもなく、ヘットのどろんとした上皮うわかわを、きれいになめてしまいました。
青い空の静まり返った、上皮うわかわに白い薄雲が刷毛先はけさきでかき払ったあとのように、すじかいに長く浮いている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こう云う羽目はめになって、面目ないの、きまりが悪いのと云ってぐずぐずしているようじゃやっぱり上皮うわかわの活動だ。君は今真面目になると云ったばかりじゃないか。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うまくかかれば大きなのが獲れると、一心にすごい水の色を見つめていた。水はもとより濁っている。上皮うわかわの動く具合だけで、どんなものが、水の底を流れるか全く分りかねる。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
心の底には自分以上に熱い涙をたくわえていたのではなかろうかと考えると、父の記念かたみとして、彼の悪い上皮うわかわだけを覚えているのが、子としていかにも情ない心持がするからである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今言った現代日本が置かれたる特殊の状況にって吾々の開化が機械的に変化を余儀なくされるためにただ上皮うわかわを滑って行き、また滑るまいと思って踏張ふんばるために神経衰弱になるとすれば
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
他人ひとが不安であろうと、泰然としていなかろうと、上皮うわかわばかりで生きている軽薄な社会では構った事じゃない。他人ひとどころか自分自身が不安でいながら得意がっている連中もたくさんある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小野さん、真面目まじめだよ。いいかね。人間はねんに一度ぐらい真面目にならなくっちゃならない場合がある。上皮うわかわばかりで生きていちゃ、相手にする張合はりあいがない。また相手にされてもつまるまい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日がだんだんかたぶいて陰の方は蒼い山の上皮うわかわと、蒼い空の下層したがわとが、双方で本分を忘れて、好い加減にひとの領分をおかし合ってるんで、眺める自分の眼にも、山と空の区劃くかくが判然しないものだから
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)