上汐あげしお)” の例文
自分は今日になっても大川の流のどのへんが最も浅くどの辺が最も深く、そして上汐あげしお下汐ひきしおの潮流がどの辺において最も急激であるかを
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
白足袋でない鼠足袋というのを穿き、上汐あげしおの河流れを救って来たような日和下駄ひよりげたで小包をげ、黒の山岡頭巾を被って居ります。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
むこうは水神すいじんの森。波止めの杭に柳がなびき、ちょうど上汐あげしおで、川風にうっすら潮のがまじる。
が、折からうっすりと、入江の出岬でさきから覗いて来る上汐あげしおに勇気づいて、土地で一番景色のいい、名所の丘だと云うのを、女中に教わって、三人で出掛けました。もう土橋の下まで汐が来ました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
折からの上汐あげしお、あぶ、あっぷとやる利助を尻目に
宵の上汐あげしお
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狭い堀割へと渦巻くように差込んで来る上汐あげしおの流れに乗じて、或時は道の砂をも吹上げはせぬかと思うほどつよく欄干の簾をうごかし始める。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
とても此処じゃアしねねえから吾妻橋から飛込むから、今は退潮ひきしお上汐あげしおか知らないが、潮に逆らっても吾妻橋まで来て待ってくんな、勘忍してくんな、死におくれたから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
背高せいたかの、二尺ばかりの立込下駄たつこみげたを穿いて、よほど沖に杖をついて釣っているのもあれば、腰まで入って横曳釣よこびきづりをしているのもある。ちょうど上汐あげしおの時期で、どの手許もいそがしそう。
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
こゝに可笑おかしな事は、折から上汐あげしお満々たる……
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
背中一面に一人は菊慈童きくじどう、一人は般若はんにゃの面の刺青ほりものをした船頭がもやいを解くと共にとんと一突ひとつき桟橋さんばしからへさきを突放すと、一同を乗せた屋根船は丁度今がさかり上汐あげしおに送られ
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「出ますよ出ますよ」と呼びながら一向出発せずに豆腐屋のような鈴ばかりならし立てている櫓舟ろぶねに乗り、石川島いしかわじまを向うに望んで越前堀えちぜんぼりに添い、やがて、引汐ひきしお上汐あげしおの波にゆられながら
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)