一側ひとかわ)” の例文
ごみごみした街中ではあるが、往来の一側ひとかわ裏には、やぶだの畑だのがいくらもあって、椿も咲いていれば、梅もほころびかけている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この四角な壁の一側ひとかわは長さどのくらいかねと尋ねると、へえ今勘定かんじょうして見ましょうと云いながら、一歩ひとあし二尺の割で、一二三四と歩いて行った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あとは髪毛かみのけと血のものみたようになったのが、線路の一側ひとかわを十間ばかりの間に、ダラダラと引き散らされて来ている。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
といううちにも、どういうものか、皿に拡げた、一側ひとかわならべの肉が、なべへ入ると、じわじわと鳴るとひとしく、はしとともに真中まんなかでじゅうと消え失せる。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
プデン型へバターを塗って先ず今のパンを一側ひとかわ並べてその上へ菓物くだものを一側置いてまたパンを並べて菓物を置いて三段か四段にして一番上にパンを並べて固く詰め込むようにします。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
宗助はこごんで、人の履物はきものを踏まないようにそっと上へのぼった。へやは八畳ほどの広さであった。その壁際かべぎわに列を作って、六七人の男が一側ひとかわに並んでいた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
海岸から一側ひとかわ裏の通りだったその青い街燈は、よく見ると、波の音に時折身震みぶるいをしていた。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
およそ十人ぐらいは一側ひとかわに並んで通ることの出来る、広い土間が、おも屋まで突抜つきぬけていると言うのですが、その土間と、いま申した我家の階子段とは、暗い壁一重ひとえになっていました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが煮えたらベシン皿でもあるいは外の深い皿へでも最初にマカロニを一側ひとかわ並べて別にチースを大匙一杯卸して入れてまたマカロニを入れてチースを加えて三段にも四段にもこうして
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
下からして一側ひとかわも石で畳んでないから、いつくずれるか分らないおそれがあるのだけれども、不思議にまだ壊れた事がないそうで、そのためか家主やぬしも長い間昔のままにして放ってある。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
載せても転げ出さないようにちょうどお膳のふちのような縁を鉄板で拵えて下の方も火気を保つため上と同じ位な縁の足を出して火気を抜くため指の太さ位なあな一側ひとかわへ三つ位明けておくのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その上、一面に嬰児あかごほどの穴だらけで、干潟の蟹の巣のように、ただ一側ひとかわだけにも五十破れがあるのです。勿論一々ひとつびとつつぎを当てた。……古麻ふるあさに濃淡が出来て、こうまたたきをするばかり無数に取巻く。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このあたり家のかまえは、くだんの長い土間に添うて、一側ひとかわに座敷を並べ、かぎの手に鍵屋の店が一昔以前あった、片側はずらりと板戸で、外は直ちに千仭せんじん倶利伽羅谷くりからだに九十九谷つくもだにの一ツに臨んで、雪の備え厳重に
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)