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ほおかぶ
うすよごれた手拭で
頬冠りをした、百姓ふうの男が一人、芝金杉のかっぱ
河岸を、さっきから
往ったり来たりしていた。
うしろから
忍ぶようにして
付いて
来た
男は、そういいながら
徐ろに
頬冠りをとったが、それは
春信の
弟子の
内でも、
変り
者で
通っている
春重だった。
もう一人、
袷の
引解きらしい、汚れた
縞の
単衣ものに、
綟綟れの三尺で、
頬被りした、ずんぐり
肥った赤ら顔の
兄哥が一人、のっそり腕組をして
交る……
そして
遥に遠く武蔵一国が我が
脚下に開けているのを見ながら、
蓬々と吹く
天の風が
頬被りした手拭に当るのを味った時は、
躍り
上り躍り上って悦んだ。