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うへすぎ
上杉の
隣家は
何宗かの
御梵刹さまにて
寺内廣々と
桃櫻いろ/\
植わたしたれば、
此方の二
階より
見おろすに
雲は
棚曳く
天上界に
似て
此年二三享徳の夏、
二四鎌倉の
御所成氏朝臣、
二五管領の
上杉と御中
放けて、
館兵火に跡なく滅びければ、御所は
二六総州の御
味方へ落ちさせ給ふより、関の東
忽ちに乱れて
我れのみ一人のぼせて
耳鳴りやすべき
桂次が
熱ははげしけれども、おぬひと
言ふもの
木にて
作られたるやうの
人なれば、まづは
上杉の
家にやかましき
沙汰もおこらず
上杉のおぬひと
言ふ
娘、
桂次がのぼせるだけ
容貌も十人なみ
少しあがりて、よみ
書き
十露盤それは
小學校にて
學びし
丈のことは
出來て、
我が
名にちなめる
針仕事は
袴の
仕立までわけなきよし