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いひがか
殘念に存じ
怒りの餘り
打捨んと思ひ
詰たる
事由迄委細に申立たり又久兵衞は己れが
惡巧みを
押隱し
是非々々百兩の
云懸りを通して文右衞門を
其所へ引据させ一通り
吟味に及びし處文右衞門は元より
潔白の
武士ゆゑ
些かも
包み
隱さず新藤市之丞より
返濟したる金子の
譯又久兵衞が百兩の
云懸りをなし
盜賊の惡名を
負せんとしたるを
濟さん程にサア/\
素直に御返しあれと
思も
寄ぬ
言懸に女房お政は大に驚き
夫りやマア久兵衞さん
途方もない百兩の金子をば文右衞門が
取しなどとは
跡形もなき
云懸り
假令戲談にもせよ然樣の事を
返せし處は實に
頼母敷心底なるが今の
咄しの
樣子にては其大橋氏へ百兩の金が
紛失したと
言懸りし油屋の番頭こそ
不屆なる
奴なれ浪人しても
帶刀する身が
盜賊の
惡名を
受出せしならんなどと
跡形もなき
言懸りを申すゆゑ
質を請出したるは市之丞より遣はしたる金子なりと
其譯を申せしかども一
向に聞入ず終に
夫に向ひ
盜賊呼はりを致すゆゑ
夫も
腹に
居兼既に久兵衞を
女と
侮りて
當事もなき
言懸り成程一夜の中に金の出來たるを
不思議と
云るれど夫は只今も申せし通り新藤市之丞が
持て來たる金なるに御前は何と思ひしにや
無體を
云ふも程があるとお政は
無念の
切齒を