はり)” の例文
其處そこ風呂敷ふろしきひぢなりに引挾ひつぱさんだ、いろ淺黒あさぐろい、はりのある、きりゝとしたかほの、びん引緊ひきしめて、おたばこぼんはまためづらしい。……
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
アウレリアはこよひも此樂曲の主人公に扮したり。一はりの「コントルバス」に氣壓けおさるゝ若干の管絃なれど、聽衆は喝采の聲を惜まざりき。
おかあさんのはりのある綺麗きれいな笑ひ声……むすこも、むすめも、勇ましいおかあさんの男姿に引きいれられようとした想像からまた引戻されました。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
この演奏も代表的なもので、コルトーの手堅いテクニックと、その行き届かざるなき叡知が、四はりのゴブラン織の絵柄を見せるような荘重さである。
そこには独立して生きる者のはりと自覚があったから、松室での生活に比べれば遙かに気楽でもあるし、伸びのびと解放された気持でいることができた。
柘榴 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とにかく一人の男が泥絵具と金紙で作ったはりぼての蛸を頭からかぶるのだ、その相棒の男は、大刀を振翳ふりかざしつつ
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
お綱がうわべにまとっている、はりだのきゃんだの意気地だの、そんな虚勢きょせいはみんな脱がして裸のお綱にしてみせる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの宿駕籠しゅくかご二十五ちょう、山駕籠五挺、駕籠桐油とうゆ二十五枚、馬桐油二十五枚、駕籠蒲団ぶとん小五十枚、中二十枚、提灯ちょうちんはりと言ったはもはや宿場全盛の昔のことで
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
天皇之を聞こしめして、悽然せいぜんとして告げて曰く、ひとへに我が子の啓す所有り、誠に以て然りとすと、もろもろ采女うねめ等に勅して繍帷ぬひかたびらはりを造らしめたまふ。(後略)
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
気のはりが少しゆるんで、次第にいて来る涙があふれそうになるので、たもとからハンカチイフを出して押えた。胸の内には只悔やしい、悔やしいと云う叫びが聞える。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
着し座す其形勢ありさまいと嚴重げんぢうにして先本堂には紫縮緬むらさきちりめんしろく十六のきく染出そめいだせしまくを張り渡し表門には木綿地もめんぢに白とこんとの三すぢを染出したる幕をはり惣門そうもんの内には箱番所はこばんしよ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かつ我子わがこを育てんという気のはりあればおのずから弟子にも親切あつく良い御師匠おししょう様と世に用いられてここ生計くらしの糸道も明き細いながら炊煙けむりたえせず安らかに日は送れど
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
心臓の大提燈おおぢょうちんをかいくぐり、はりボテ肺臓を押し分けて、食道の方へ、トンネルの様な暗闇の細道へ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たけのこを輪切りにすると、こんな風になる。はりのあるまゆに風を起して、これぎりでたくさんだと締切った口元になおこもる何物かがちょっとはためいてすぐ消えた。母は相槌あいづちを打つ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひたすら良人をつとに逢ひたいと云ふのぞみはり詰めた心が自分を巴里パリイもたらした。さうして自分は妻としての愛情を満足させたと同時に母として悲哀をいよいよ痛切に感じる身と成つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しよ、ことわつてお仕舞しまひなとへば、こまつたねとおきやう立止たちどまつて、それでもきつちやんわたしあらはりきがて、もうおめかけでもなんでもい、うで此樣こんつまらないづくめだから
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
欧州にて和蘭オランダ白耳義ベルギーのごとき小国が、仏独の間に介在かいざいして小政府を維持するよりも、大国に合併がっぺいするこそ安楽あんらくなるべけれども、なおその独立をはりて動かざるは小国の瘠我慢にして
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その芝居へ出てくる、葛城太夫かつらぎたゆうと、丁山ちょうざんという二人の遊女が、吉原全盛期の、おなじはり意気地いきじをたっとぶ女を出して、太夫と二枚目、品位と伝法でんぽうとの型を対立させて見せてくれた。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それから気のはりがなくなったというのか、めっきり弱くなられましたが、三、四月頃からは米寿べいじゅの祝をして上げるといわれたのをひどく喜んで、いつもその気分でいられるのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
薄絹張うすきぬばり雪洞ぼんぼりに西洋蝋燭ろうそくを燈したるものが二十四はりばかり吊してある。輦輿みこしの中にシナの立派なる官服を着け、頭にはいわゆる位階を表わしたる帽子を被ってジーッと坐り込んで居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これにのぼるべきだんをも雪にて作り、いたゞき平坦たひらになし松竹を四すみに立、しめをはりわたす(広さは心にまかす)内には居るべきやうにむしろをしきならべ、小童等こどもらこゝにありて物をひなどしてあそ
「私も四ツ谷の方から取って来れば二タはりもあるんですがね。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
気象きしやうが大きくておほまかで、はりがあつて、派出はでで。
お月さまいくつ (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はりのなき声にて、ようよう。)恐しく。
その時、みなぎる心のはりに、島田の元結もとゆいふッつと切れ、肩に崩るる緑の黒髪。水に乱れて、灯にゆらめき、畳の海はもすそに澄んで、ちりとどめぬ舞振まいぶりかな。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三味線一挺あれば、孤身こしんを養うにはことも欠かないし、身を切るような夜風にふきさらされても、ばちを飯の種と思ってはりをこめれば、寒さなどは忘れている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
結うことはおまきあやの髪を、前髪にはりのない、小さい祖母子おばこに結ったのが手始てはじめで、後には母の髪、妹の髪、女中たちの髪までも結い、我髪はもとより自ら結った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
押立おしたて玄關にはむらさき縮緬の幕をはり威儀ゐぎ嚴重げんぢうに構へたり此時下の本陣には播州ばんしう姫路ひめぢの城主酒井雅樂頭殿どの歸國の折柄にて御旅宿なりしが雅樂頭うたのかみ殿上の本陣に天一坊旅宿の由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
出京しゆつきやう當座たうざは、大分だいぶん身體からだおとろへてゐたので、御米およね勿論もちろん宗助そうすけもひどく其所そこ氣遣きづかつたが、今度こんどこそはといふはら兩方りやうはうにあつたので、はりのあるつき無事ぶじ段々だん/\かさねてつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ぼんりては仕事しごといづはりもなく、おまへさんれではならぬぞへといさてる女房にようぼうことばみゝうるさく、エヽなにふなだまつてろとてよこになるを、だまつてては此日このひすぐされませぬ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
意気地もはりもない多与里に、さして魅力を感ずる筈もなく、心のうちでは入山形に二つ星の、なにがし太夫の強靭な恋の技巧を考え乍ら、この娘を一つたぎらせて見ようと言った、悪魔的な遊び心と
話をしている間に深味のあるはりをもった眼が幾度も涙でいっぱいになる。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あれははりぼての岩だったけれど、何かを包み隠している点で、やっぱり一種の箱と云ってもいい。その箱の中から、短剣が飛出したのじゃ。丁度今この秘密函から蠍が飛出した様にね。どうだね。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これにのぼるべきだんをも雪にて作り、いたゞき平坦たひらになし松竹を四すみに立、しめをはりわたす(広さは心にまかす)内には居るべきやうにむしろをしきならべ、小童等こどもらこゝにありて物をひなどしてあそ
はりのない痲痺まひしきつたわらひを洩らしながら
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なあ姉さん、おらが嫁さんだって何だぜ、己が漁に出掛けたあとじゃ、やっぱり、はりものをしてくんねえじゃ己いやだぜ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
加番は各物頭ものがしら五人、徒目付かちめつけ六人、平士ひらざむらひ九人、かち六人、小頭こがしら七人、足軽あしがる二百二十四人をひきゐて入城する。其内に小筒こづゝ六十ちやう弓二十はりがある。又棒突足軽ぼうつきあしがるが三十五人ゐる。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
もよほしけるされど始めて宿り心も知れざる家なれば吉兵衞は氣をはりれども我しらしきりに居眠ゐねぶりけるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
(最低保証の定給制もいくらか有ったのかもしれないが)——たとえば、写経一はりぜにもん、四十張で布一たん、八十張であしぎぬ一匹、といった程度。そして食物は一切精進だ。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忘れてしまへあきらめてしまへと思案はめながら、去年の盆にはそろひの浴衣ゆかたをこしらへて二人一処に蔵前くらまへ参詣さんけいしたる事なんど思ふともなく胸へうかびて、盆に入りては仕事にいづはりもなく
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
梅子ははりの強いを据ゑて、代助を見た。さうして
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
兩人りやうにんすそところが、とこよこ一間いつけん三尺さんじやくはりだしの半戸はんとだな、した床張ゆかばり、突當つきあたりがガラスはきだしまどで、そこが裏山うらやまむかつたから、ちやうどそのまど
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けれど、かの女自身にしてみれば、ぶさは、つかんでみてもはりがないし、乳くびは、あんず種子たねみたいに黒い。なんとしても、四人の男の子をはぐくんだ泉のれが皮膚にもある。
たけ五尺五六寸の、面長おもながな、色の白い男で、四十五歳にしては老人らしい所が無い。濃い、細いまゆつてゐるが、はりの強い、鋭い目は眉程には弔つてゐない。広いひたひ青筋あをすぢがある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
はりも意気地もない愚うたらの奴、それからして気に入らぬと仰しやりまする、さうかと言つて少しなりとも私の言条いひでうを立てて負けぬ気に御返事をしましたらそれをとつてに出てゆけと言はれるは必定
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その声には力もはりもなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……眉は鮮麗あざやかに、目はぱっちりとはりを持って、口許くちもとりんとした……ややきついが、妙齢としごろのふっくりとした、濃い生際はえぎわ白粉おしろいの際立たぬ、色白な娘のその顔。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御自分ごじぶんくちからてゆけとはおつしやりませぬけれどわたし此樣このやう意久地いくぢなしで太郎たらう可愛かわゆさにかれ、うでも御詞おことば異背いはいせず唯々はい/\小言こごといてりますれば、はり意氣地いきぢもないうたらのやつ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
がばと、筋肉へはりを入れて、ね起きた。
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お蔦 でも、たまには一所に連れて出て下さいまし。夫婦いっしょになると気抜きぬけがして、意地もはりもなくなって、ただ附着くッついていたがって、困った田舎嫁でございます。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)