帽子ばうし)” の例文
といつて、なみだだかあせだか、帽子ばうしつてかほをふいた。あたまさらがはげてゐる。……おもはずわたしかほると、同伴つれ苦笑にがわらひをしたのである。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
道を歩いてゐる時、ふいに風が吹いて帽子ばうしが飛ぶ。自分の周囲のすべてに対して意識的になつて帽子を追つかける。だから中々帽子は手に這入はいらない。
拊掌談 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なれたる人はこれをはきてけものを追ふ也。右の外、男女の雪帽子ばうし下駄げた其余そのよ種々雪中歩用ほようあれども、はく雪の国に用ふる物にたるはこゝにはぶく。
二種の帽子ばうしの形状は右にべたる通りなるが、實物じつぶつ搆造かうざうは果して如何なりしかは未だ考定の材料ざいれうを有せず。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
「やあ昨夜さくやは。いま御歸おかへりですか」と氣輕きがるこゑけられたので、宗助そうすけ愛想あいそなくとほぎるわけにもかなくなつて、一寸ちよつと歩調ほてうゆるめながら、帽子ばうしつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
醫者いしやちひさな手鞄てかばんを一つつてふる帽子ばうしをちよつぽりいたゞいてた。手鞄てかばん勘次かんじ大事相だいじさうつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
つうじければ山内先生の御出とならば自身に出迎でむかうべしと何か下心したごころのある天忠が出來いできた行粧ぎやうさう徒士かち二人を先立自身はむらさきの法衣ころも古金襴こきんらん袈裟けさかけかしらには帽子ばうしを戴き右の手に中啓ちうけい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
またモイセイカは同室どうしつものにもいたつて親切しんせつで、みづつてり、ときには布團ふとんけてりして、まちから一せんづつもらつてるとか、めい/\あたらしい帽子ばうしつてるとかとふ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
へえゝ、ふ姿で、したなにか出してますか。婆「おもたいかんむりつてしまひ、軽い帽子ばうしかぶつて、また儀式ぎしきの時にはおかむりなさいます、それに到頭たうとう散髪ざんぱつになツちまひました。 ...
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
帽子ばうしも冠らないのだからそれにつかると、かほへでも手へでもぢきたかられる。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
麥藁むぎわらでさへ帽子ばうし出來できるのに、檜木ひのきかさつくれるのは不思議ふしぎでもありません。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
同車どうしやひとかつたらぼく地段駄ぢだんだんだらう、帽子ばうしげつけたゞらう。ぼくつて、眞面目まじめかほして役人やくにんらしい先生せんせいるではないか、ぼくだがつかりしてこまぬいてしまつた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
『おまへ帽子ばうしげ』と王樣わうさま帽子屋ぼうしやまをされました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
なにがなしに帽子ばうしをふりて
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かぶつた帽子ばうしにや
歌時計:童謡集 (旧字旧仮名) / 水谷まさる(著)
可哀あはれ車夫しやふむかつて、大川おほかはながれおとむやうに、姿すがた引締ひきしめてたゝずんだ袖崎そでさき帽子ばうしには、殊更ことさらつき宿やどるがごとえた。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なんなにがし帽子ばうしばかり上等なのをかぶつてゐる。あの帽子さへなければいのだが、——かう云ふ言葉をす人がある。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なれたる人はこれをはきてけものを追ふ也。右の外、男女の雪帽子ばうし下駄げた其余そのよ種々雪中歩用ほようあれども、はく雪の国に用ふる物にたるはこゝにはぶく。
帽子 土偶中には帽子ばうしを戴きたるが如くにつくられたる物二個有り。一は鍔の幅廣はばひろき帽子をば後部にて縱に截り、つばはしをば下の方にきて且つ後頭部にし付けたるが如きかたなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
小六ころく自分じぶん所有物しよいうぶつあに無斷むだんひとれてやつたのが、しやくさはつたので、突然いきなり兼坊けんばう受取うけとつた帽子ばうしつたくつて、それを地面ぢめんうへげつけるやいなや、がるやう其上そのうへつて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
下腹したつぱらほうぬけにはずんでふくれた、あしみぢかい、くつおほきな、帽子ばうしたかい、かほながい、はなあかい、それさむいからだ。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
僕等の作品を批評する時にも一応は帽子ばうしを脱いだ上、歌人や俳人に対するやうに「素人であるが」とことわり給へ。
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
をつと簑笠みのかさを吹とられ、つま帽子ばうしふきちぎられ、かみも吹みだされ、咄嗟あはやといふ眼口めくち襟袖えりそではさら也、すそへも雪を吹いれ、全身ぜんしんこゞえ呼吸こきうせま半身はんしんすでに雪にめられしが
京都きやうと襟新えりしんうち出店でみせまへで、窓硝子まどがらす帽子ばうしつばけるやうちかせて、精巧せいかう刺繍ぬひをしたをんな半襟はんえりを、いつまでながめてゐた。そのうち丁度ちやうど細君さいくん似合にあひさうな上品じやうひんなのがあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
工學士こうがくしは、井桁ゐげたんだ材木ざいもくしたなるはしへ、窮屈きうくつこしけたが、口元くちもと近々ちか/″\つた卷煙草まきたばこえて、その若々わか/\しい横顏よこがほ帽子ばうし鍔廣つばびろうらとをらした。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
○かくてそのつまは母もし子どもゝかしたれば、この雪あれにをつとはさこそこゞえ玉ふらめ、ゆきむかへてつれかへらんと、みのにみの帽子ばうしをかふり、松明たいまつをてらし、ほかに二本を用意よういしてこしにさし
博士はかせ片手かたて眼鏡めがねつて、片手かたて帽子ばうしにかけたまゝはげしく、きふに、ほとんどかぞへるひまがないほどくつのうらで虚空こくうむだ、はしががた/\とうごいてつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ふがいなや、くつどのがかぶつた帽子ばうし引捻ひんねぢつてつたとおもふと、片側町かたがはまち瓦屋根かはらやねうへへ、スポンとげて
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其時そのときいまかむつてる、たか帽子ばうしつてたが、なんだつてまたあんなはづれの帽子ばうしたがるんだらう。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ねずみのぐたりとした帽子ばうしかぶつて、片手かたてつゑみぎ手首てくびに、赤玉あかだま一連いちれん數珠じゆずにかけたのに、ひとつのりん持添もちそへて、チリリリチリリリと、おほきつてらし
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とゞろ/\と踏鳴ふみならしもしない、かるくつおとも、はずで、ぽかりと帽子ばうしぐやうにつのえためんつて、一寸ちよつとかべくぎけた、かほると、なんと! 色白いろじろ細面ほそおもて
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
若旦那わかだんなは、くわつと逆上のぼせたあたまを、われわすれて、うつかり帽子ばうしうへから掻毮かきむしりながら、拔足ぬきあしつて、庭傳にはづたひに、そつまどしたしのる。うちでは、なまめいたこゑがする。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
尊頭そんとうたまりますまい。何故なぜ屋根やねへおあがんなすつてお帽子ばうしをおりなさいません。」
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其處そこ薄汚うすよごれたしたぐつつて、かたからひさしへ、大屋根おほやね這上はひあがつて、二百十日にひやくとをかかたちで、やつとこな、と帽子ばうしつかむと、したやつ甜瓜まくはかじりにくつつかんで、一目散いちもくさん人込ひとごみなかへまぎれてさふらふ
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さきつたのはねずみであらう、夜目よめにはもやつてなやした、被布ひふのやうなものを、ぐたりとて、ふちなしの帽子ばうしらしい、ぬいと、のはうづにたかい、坊主頭ばうずあたまのまゝとふのをかぶつた
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ぱツと、つてるものの、にもまゆにもかゝるから、ト帽子ばうしかたむけながら
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
駅員えきゐん一人ひとりは、帽子ばうしとゝもに、くろ頸窪ぼんのくぼばかりだが、むかふにて、此方こつち横顔よこがほせたはうは、衣兜かくし両手りやうてれたなり、ほそめ、くちけた、こゑはしないで、あゝ、わらつてるとおもふのが
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……ふちあをくつて、いろあかちやけたのに、あつくちびるかわいて、だらりといて、したしさうにあへぎ/\——下司げす人相にんさうですよ——かみながいのが、帽子ばうししたからまゆうへへ、ばさ/\にかぶさつて
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しろ帽子ばうしけてある。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)