鼕々とうとう)” の例文
鼕々とうとうと、無敵をほこる藤田隊の押太鼓は、信孝の身辺をむらがり守る騎馬の士たちの足なみをも、しどろに乱しておびやかした。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くさくさの式も首尾好く終って鼕々とうとうと打鳴らす太鼓の音を合図に、暗黒世界は忽ち光明世界に急変するのであった。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
鼓の音は鼕々とうとうと松林に反響した。微塵みじんのゆるみもなく張り切った音色である。それは人の耳へ伝わるものでなくて、じかに骨髄へ徹する響を持っていた。
鼓くらべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あとから、鼕々とうとうと軍鼓の音が揚った。——同時に城内くまなくひびけとばかりに、叫んだ声が流れ伝わった。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
初夏のころその横倉山から眺めると、瀑は半ば以上を新緑の上に見せて、その銀色の大樽をさかしまにしたような水が鼕々とうとうとして落ちているので、土地の人は大樽と呼んでいる。
蛇怨 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
大滝の巾十間、落差二丈もあるだろうか、巨大なビイドロの如き落口、白浪相噛あいかむ滝壺、四隣を震わす鼕々とうとうの音、小さいながらも、滝というものの美しさを凡て備えていた。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
六所様にはけい六尺の上もある大太鼓おおだいこが一個、中太鼓が幾個いくつかある。若いたくましい両腕が、撥と名づくる棍棒で力任ちからまかせに打つ音は、四里を隔てゝ鼕々とうとうと遠雷の如くひびくのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ばたばた足の責太鼓、鼕々とうとうと打鳴らいて、かッかと笑い
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼕々とうとうと昇り来りし初日かな
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
鼕々とうとうという水音にふと面を上げて見ると、ここは保津川の川縁かわべり彼方あなた青巒せいらんから一面の名鏡ともみえる夏の月がさし上って、大河に銀波をっていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて合図の太鼓が鼕々とうとうとなった。第一番に出てきたのは赤川平五郎である。
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すなわち閉じたる城門を開け放ち、姜維は銀鎧ぎんがい金鞍きんあんという武者振りに、丹槍たんそうの長きを横にかかえ、手兵二千に、鼕々とうとうと陣歌を揚げさせて、城外へ出た。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉の姿の見える中軍のあたりは、いくさ奉行、旗奉行たちの、叱咤の声が高かった。激越げきえつなるかいかねのひびき、また、押太鼓の音が、鼕々とうとうなみとなって、先鑓さきやりを励ました。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第三隊は林冲りんちゅう花栄かえい、その組の中に李逵も入っている。つまりは、総攻撃である。赤地に「すい」の大字を白抜きした大旗をさきに、陣鼓じんこ鼕々とうとう祝朝奉家しゅくちょうほうけの山城へせまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
霧をやぶる太鼓の音が、鼕々とうとう、全陣地を揺るがし始めた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)