飽果あきは)” の例文
わたくしもすでに久しくおのれの生涯には飽果あきはてている。日々の感懐かんかいにはあるいは香以のそれに似たものがあるかも知れない。
枯葉の記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この軍艦ぐんかん獻納者けんなうしやであれば、本艦ほんかん引渡ひきわたしの儀式ぎしきためと、ひとつには、最早もはや異境ゐきやうそら飽果あきはてたればこれよりは、やまうるはしく、みづきよ日本につぽんかへらんと、子ープルスかうから本艦ほんかん便乘びんじやうした次第しだいです。
女中が持運ぶ蜆汁しじみじる夜蒔よまき胡瓜きゅうりの物秋茄子あきなすのしぎ焼などをさかなにして、種彦はこの年月としつき東都一流の戯作者げさくしゃとしておよそ人のうらやむ場所には飽果あきはてるほど出入でいりした身でありながら
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
神代帚葉翁こうじろそうようおうが生きていた頃には毎夜欠かさぬ銀座の夜涼みも、一夜いちやごとに興味のくわわるほどであったのが、其人も既に世を去り、街頭の夜色にも、わたくしはもう飽果あきはてたような心持になっている。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)