頸垂うなだ)” の例文
ひとしく王子の無事を喜び矢継早やつぎばやに、の度の冒険にいて質問を集中し、王子の背後に頸垂うなだれて立っている異様に美しい娘こそ四年前
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その後から、凄まじい騎馬が砂煙を立って城下へ七、八騎飛んだかと思うと、一隊の武士が悄然と頸垂うなだれ勝ちに跫音も湿って帰って来た。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを背景にして玄関には、父を失い手頼たよりのない、美しい民弥が頸垂うなだれている。その前に右近丸が立っている。若くて凜々しい右近丸が。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
子どものことを言われて、おしおは思わず帯のところへ手を遣って、じっと頸垂うなだれたまま考えこんでしまった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
注射が効力をもっている間の先生の頭脳あたまは、頸垂うなだれた草花が夜露にうるおったようなものであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
流石さすがに事に慣れた川崎署員たちも、こうした告白は珍らしかったらしい。戸若運転手が告白を終って頸垂うなだれてしまってからも、四人の警官が互いに顔を見合わせてシインとしていた。
衝突心理 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
河原撫子かわらなでしこ女郎花おみなえし鵯花ひよどりばな、何やら升麻しょうま、車百合などの花が露重たげに頸垂うなだれている。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ほしいままに振舞ふ威力の前に、ただ頸垂うなだれて、をののいて居るだけである。
秋の第一日 (新字旧仮名) / 窪田空穂(著)
黄昏たそがれ頸垂うなだれてゆくもののかげ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
がっくりと頸垂うなだれた。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
几帳きちょうの蔭につつましく坐り開け放された窓を通して黄昏たそがれ微芒びぼうの射し込んで来る中に頸垂うなだれているその姿は
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
少し勉強したらどうか、と私は言いにくい忠告をした事もあったが、その時、佐野君は腕組みをして頸垂うなだれ、もうこうなれば、小説家になるより他は無い、と低い声でつぶやいたので、私は苦笑した。
令嬢アユ (新字新仮名) / 太宰治(著)
うとましや、頸垂うなだるる影を、軟風なよかぜ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
頸垂うなだれていた顔を上げ山吹はまたその人を見た。とその人はまた微笑し、さも謙遜けんそんえないように
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「七ツ寺だということだが、昔の俺なら大好きな火事、何を措いても飛んで行き、弥次馬根性をさらけ出すんだがなあ。眼が見えなくちゃア仕方がねえ」ここでグッタリ、頸垂うなだれた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その三人に囲まれながら、頸垂うなだれて歩むのは女であった。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)