ぐつ)” の例文
「実にいゝ景色だねえ。も少し急いで行かうか。」と二疋が両方から、まだ破けないカン蛙のゴムぐつを見ながら一緒に云ひました。
蛙のゴム靴 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
喜六君はズックぐつをぬいで、畠の垣根かきねになっているまきの根方にかくし、いたちのようにすばやく、池の方へのぼってゆきました。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
石井翁は綿服ながら小ザッパリした衣装なりに引きかえて、この老人河田翁は柳原仕込やなぎわらじこみの荒いスコッチの古洋服を着て、パクパクぐつをはいている。
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「おお! おかみさん、えらくりだしたじゃねえか。いやになるねえ、いつまでも寒くて、この大雪おおゆきじゃ、わしのぼろぐつで歩くのはこたえまさあね」
それは川面かわも漣波れんぱに、蘆荻ろてきのそよぎに、昼顔の花に、鳥のさえずりに、ボロ服とボロぐつにあるのではないか。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それなら、実は此方こっちとうからその気ありだから、それ白痴こけが出来合ぐつを買うのじゃないが、しッくりまるというもンだ。嵌まると云えば、邪魔の入らない内だ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
肩を曲げ、はだけた上着のポケットに両手をつき込み、足には破れぐつを引きずっていた。ボタンもかけ終わっていないズボンの上には、シャツがたくね上がっていた。
そういう片言でやぶぐつの底でも繕うがいい。しかもそのばかな小僧っ児どもが政治上の意見を持ってるというのか。奴らが政治に口を出すことは厳重に禁じなければいかん。
「さうか。そんなら一つお前さん、ゴムぐつを一足工夫して呉れないか。形はどうでもいいんだよ。僕がこしらへ直すから。」
蛙のゴム靴 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「このごろ、ヘロンの方ではゴムぐつがはやるね。」ヘロンといふのは蛙語です。人間といふことです。
蛙のゴム靴 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
すると又向うから無暗むやみにぎらぎら光るねずみ色の男が、赤いゴムぐつをはいてやって参りました。
ゴムぐつの底のざりざりの摩擦がはっきり知れる。滑らない。大丈夫だ。さらさら水が落ちてゐる。靴はビチャビチャ云ってゐる。みんないゝ。それにみんなは後からついて来る。
台川 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
あしにゴムぐつでぴちゃぴちゃ水をわたる。これはよっぽどいいことになっている。前にも一ぺんどこかでこんなことがあった。去年きょねんの秋だ。腐植質フィウマスの野原のたまり水だったかもしれない。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)