陽脚ひあし)” の例文
私たちはいつもヴェランダの椅子にかけて、朝から晩まで、移り変る陽脚ひあしと、それに応じて色をえる海の相とを眺めて暮らした。
秀吉は、呵々かかと笑い捨てて、早や飛鞭ひべん遠くを指していた。疾駆する馬の背から、折々陽脚ひあしを仰いだ。刻々の寸時も惜しまれているらしい。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太陽はだいぶ西に傾いて、淡い陽脚ひあしを斜めに投げだしていた。緑の新芽は思い思いの希望を抱き、榾火ほだびはとっぷりと白い灰の中に埋もれていた。
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
陽脚ひあしの早い冬のことで、いつかあたりはもう薄ら暗く、街道を通る人も稀であった。
(新字新仮名) / 犬田卯(著)
時の移るのも忘れて、お喋舌しゃべりをしていた率八が、障子に蔭る陽脚ひあしに驚いて、蒼惶と馬春堂の家を辞して帰るとすぐに、お蝶も外へ急ぎました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆくさ来るさの車馬と女の頬の農民的な赤さ——この丁抹デンマーク的雰囲気のまんなか、正面クリスチャン五世の騎馬像ヘステンに病人のような弱々しい陽脚ひあしがそそいで、その寒い影のなかで
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
しかしそのとき、円明寺川の方面に、喊声かんせいと銃声が揚った。きっかりさるこく(午後四時)頃の陽脚ひあしであった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今もすでに、陽脚ひあしは西にうすずいて、往来の人影にも、のろく通る牛車にも、虹いろの暮靄ぼあいしていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御所へ帰る時刻ばかり気にして、陽脚ひあしの短さを、生命いのちのちぢむようにおそれている自分たちに較べて——
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのおなじ日の落ちゆく陽脚ひあしをいそいで、まだ逆川さかさがわ夕照ゆうでりのあかあかと反映はんえいしていたころ、小夜さよ中山なかやま日坂にっさかきゅうをさか落としに、松並木まつなみきのつづく掛川かけがわから袋井ふくろい宿しゅくへと
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつか陽脚ひあしが傾いてきた。紫のひだを濃くしてゆく山の姿は夕暮の近さを示してきた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かかる場合ばあいは、千をとぶ逸足いっそくももどかしく、一日の陽脚ひあしもまたたくひまである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、思わずも時を過ごしたので、兵庫も助九郎も、陽脚ひあしに気がつき
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とき、すでに七刻ななつごろの陽脚ひあし
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)