部厚ぶあつ)” の例文
ギーッ、ギーッという音に、不図ふと気がついたのは例の熊岡警官だった。彼は部厚ぶあつ犯罪文献はんざいぶんけんらしいものから、顔をあげて入口を見た。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ギラリと、抜いた、幅広はばひろ部厚ぶあつの太刀を、ぐうッと、上段に引き上げて、鉄棒のように硬く長いからだを、ずいずいと進めて来た。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
虫ばんだが一段高く、かつ幅の広い、部厚ぶあつ敷居しきいの内に、縦に四畳よじょうばかり敷かれる。壁の透間すきま樹蔭こかげはさすが、へりなしのたたみ青々あおあおと新しかった。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
部厚ぶあつの芳名録には、一流の道場主が続々と名前を書いてくれるから、次に訪ねられた道場では、その連名だけでおどかされる。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
海苔のりもよくなければいけないのは勿論もちろんである。海苔も部厚ぶあつなものが巻きに適するが、厚いものにはよい物がないが部厚でありながらよい物を備える必要がある。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
記録というのは、真赤なかわ表紙であわせた、二冊の部厚ぶあつな手紙の束であった。全体が同じ筆蹟ひっせき、同じ署名で、名宛人なあてにんも初めから終りまで例外なく同一人物であった。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
見て「これが一円とはヤスイ物、従来二円三円で買って居た本よりも部厚ぶあつで立派だ、これを一円で売っても儲かるものとすれば、本というものは安く出来るものらしい」
左の手には大きな部厚ぶあつの洋書を二冊抱え、右には新聞と小さな風呂敷包ふろしきづつみを下げていた。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
部厚ぶあつで、血のたれる柔いビフテキを、不器用な手つきで切りながら
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
……何の好みだか、金いりの青九谷あおくたにの銚子と、おなじ部厚ぶあつ猪口ちょこを伏せて出た。飲みてによって、器に説はあろうけれども、水引に並べては、絵の秋草もふさわしい。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ、もしかすると……」そのとき光枝の頭にひらめいたのは、この部厚ぶあつい一枚彫の陽明門が、じつは一枚彫ではなくて、陽明門のあたりだけが、ぽっくりめこみになっているのではあるまいか。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)