遠音とほね)” の例文
江戸開府以來の捕物の名人と言はれた錢形の平次は、春の陽が一杯に這ひ寄る貧しい六疊に寢そべつたまゝ、紛煙草をせゝつて遠音とほねうぐひすに耳をすまして居りました。
三味線さみせん太鼓たいこは、よその二階三階にかいさんがい遠音とほねいて、わたしは、ひつそりと按摩あんまはなした。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
がうと響く遠音とほねとゝもに、汽車が北から南へ走るのが、薄絹をいて手遊品おもちやの如く見えた。其の煙突からは煙とゝもに赤く火をき出した。やみやぢり/\と石段を登つて來さうであつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ふるさとの潮の遠音とほねのわが胸にひびくをおぼゆ初夏の雲
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
遠音とほねに きりり 近郊電車のせつかちな軋りかた…
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
2、音色ねいろは、霞むやうな銀の鈴の遠音とほねの断続。
あはれ、いのちの小鼓こつづみの鳴の遠音とほね
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
答ふらむ遠音とほねを聞きて
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
いま聴くはいち遠音とほね
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
をさ遠音とほねを聞かめやも
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
貝は遠音とほねにこたふ。
君こそは遠音とほねに響く
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
寶屋の家に殘つたのは、主の清右衞門と娘のお島だけ、そのお島は風邪の氣味で引籠ひきこもつて居り、櫻の馬場の騷ぎを遠音とほねに聽いて、自分の部屋に引つ込んで居りました。此時
夕汽車ゆふぎしや遠音とほねもしづみ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一とたび鐘の音にかき亂された闇は、元より靜かな閑寂かんじやくさに返つて、町の遠音とほねも死んだやう。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
祭太鼓の遠音とほねを縫つて、蟲の音がジージーと耳に沁みます。