逆上あが)” の例文
賛之丞は、その途端に、血が逆上あがったように騒ぎ立って、裏木戸にいた七、八人といっしょに、土足で、母屋のまん中を駈けぬけた。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だが親分、高が犬ころが逆上あがってるだけ、それにこの大暴風雨、悪いこたあ申しませんぜ、お止めなすっちゃいかがですい。」
『まあ少し、冷静に返ってみては何うじゃな。お互いが、いわばこの際は、逆上あがっている。炎から一歩退しりぞいてみるも、必要じゃないかの』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆上あがっているから耐らない、卍の富五郎ほうを忘れて切ってかかる。
「先にこっちで訊いたことを、今度は自分から訊いていやがる。はははは。この飛脚、よほどどうかしておるぞ。逆上あがッておる」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兄哥あにいすっかり逆上あがってしまっている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だが、仰向いて揺られて行ってはよくないぞ、体の内部にあふれている血が、臓器をおか頭脳あたまへも逆上あがってしまうかも知れん
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左膳思わずいら立ち逆上あがった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、かたくいましめても、辻の曲り角へ来ると、気の逆上あがっている卒は、忽ちパチパチと霧の中を銃を盲射もうしゃし始めていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆上あがっているとは何事だ。この主家の大凶事に、冷然としていられぬことは、決して恥ではない。城受取りの寄手よせて
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「強敵、戸波隼人を討ったのは、出来でかしたが、それが精いッぱいか、貴様、少し逆上あがっているぞ。——その首、敵兵にり返されぬように気をつけろ」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ばかを言え、酒とちがって、四合も飲みゃ眼がくらんでしまって、カーッと逆上あがると何が何だかわからなくなる。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ドドドドッと、二階へかけあがった召使たちの声は口々にもう逆上あがっている。「奥さま、奥さま!」「たいへんっ」「お早くしないと」「焼け死にますよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとより雑兵ぞうひょうにはちがいない。市松も虎之助も、びっくりしたが、それ以上、敵兵のほうが逆上あがっていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あなたは、ここにおればよい。敵城の中というものは、よほどきもがすわって来ないと、どんな小城でも、勝手のわからないものだ。どうしたって、逆上あがってしまいますからな」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰の眼も、眸の先に光りものがちらついて、気が逆上あがったように、血走っていた。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とズイと前へ出たのは舞鶴の新造で、よほど何かに、逆上あがっていると見えて、無作法な抜刀ぬきみげだ。いや、新造ばかりでなく、他の者すべて物々しい脇差を抜き払っていたのだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だまれ。ひとの功をそねんで要らざる雑言ぞうごん。どこに虎之助が逆上あがっているか」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
郷士たちの方は、二人といっても、すでに一人はを負っているので、まったく逆上あがっていた。城太郎の太股ふとももの辺からも、鮮血はそこらへ散るし、文字どおり斬りつ斬られつの修羅図であった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとつには、奥へ、大亀が這入って行ったとたんに、異様な物音と、女の叫び声が起り、それが一瞬に止むと、不気味な静けさに返ったので——外にいた市十郎の気も逆上あがッていたにちがいなかった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鶏と鶏は、もう、首をつき出して、人間ならば、逆上あがっている血相に見える。——判者の合図。——パッと放つ。砂がとぶ。血のついた毛が、羽ばたかれる。生きるか、死ぬか。取るか、取られるか。
さすがに、お綱ほどの女も顛倒てんとうしていた、血が逆上あがっていた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人々の眼も血ばしり、気も逆上あがっていたにちがいなかった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こいつ、逆上あがッているな……ふ、ふ、ふ、ふ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)