質樸しつぼく)” の例文
反応を要求しない親切ならば受けてもそれほど恐ろしくないが、田舎いなかの人の質樸しつぼくさと正直さはそのような投げやりな事は許容しない。
田園雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
質樸しつぼくな職人気質かたぎから平八郎がくはだての私欲を離れた処に感心したので、ひて与党に入れられたうらみを忘れて、生死を共にする気になつたのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
けれど、質樸しつぼくきたほうくに人々ひとびとは、そのことをりませんでした。また、とおみなみくにへゆくにしても、幾日いくにち幾日いくにちたびをしなければならない。
宝石商 (新字新仮名) / 小川未明(著)
徳川は、全く下り坂で、旗本はたもとも腰が抜けてしまった、関東の武士も今は怖るるところはない、ただ新徴組の一手と——それに東北の質樸しつぼく国侍くにざむらいに歯ごたえがある。
それを質樸しつぼくな婆さんと見たのがこちらの誤りであったか……そんなことを思った。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
縄文式のものの持つ形式的に繁縟はんじょくな、暗い、陰鬱いんうつな表現とはまるで違って、われわれの祖先が作った埴輪の人物はすべて明るく、簡素質樸しつぼくであり、直接自然から汲み取った美への満足があり
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
「だれに?」とメルキオルは質樸しつぼくに尋ねた。
質樸しつぼくなれば言葉すくなきに、二言ふたこと三言みことめには、「われ一個人にとりては」とことわるくせあり。にわかにメエルハイムのかたへ向きて、「君がいひなづけの妻の待ちてやあるらむ、」といひぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
婆あさんの質樸しつぼくで、身綺麗みぎれいにしているのが、純一にはひどく気に入った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)