にぎわい)” の例文
浅草奥山のにぎわいは今も昔も変りがなく、見世物小屋からは景気のよい囃子の音が聞こえてきた。恐ろしいような人出であった。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かくて年は暮れたり。画工は正月の松飾まつかざり整ひたる吉原のくるわ看客かんかくを導き、一夜明くれば初春迎ふる色里のにぎわいを見せて、ここにこの絵本を完了す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
酸漿屋ほおずきやの店から灯がともれて、絵草紙屋、小間物みせの、夜のにしきに、くれないを織り込むにぎわいとなった。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この岡のほうへおいでなさい。まるでプラアテル同様なにぎわいです。4210
この他、平日にても普請ふしんといい買物といい、また払物はらいものといい、経済の不始末ふしまつは諸藩同様、枚挙まいきょいとまあらず。もとより江戸の町人職人の金儲かねもうけなれども、その一部分は間接に藩中一般のにぎわいたらざるを得ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
屋根船はその間にいつか両国のにぎわいぎ過ぎて川面かわもせのやや薄暗い御蔵おくら水門すいもんそと差掛さしかかっていたのである。燈火の光に代って蒼々あおあおとした夏の夜の空には半輪はんりんの月。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
並木の茶屋のにぎわいと町を歩く新内しんないの流しが聞えて駒形堂こまかたどうの白い壁が月の光にあおく見え出した。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
天保十三年浅草山あさくさやま宿しゅくに移転を命ぜられし江戸三座劇場のにぎわいも、また吉原と同じく、広重の名所絵においては最早もはや春朗しゅんろう豊国らの描きし葺屋町ふきやちょう堺町さかいちょうの如き雑沓を見ること能はず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
われは或一派の詩人の如く銀座通ぎんざどおり燈火とうかを以て直ちにブウルヴァールのにぎわいに比し帝国劇場を以てオペラになぞらへ日比谷ひびやの公園を取りてルュキザンブルにするが如き誇張と仮設を
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)