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貴公
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あなた
「ハイ、今朝までに済みました。で
貴公方は?」これは
上辺の挨拶に過ぎぬのである。かような会話は
固より彼の好むところではない、むしろ
厭う方である。
濟ぬ事
熟々御改めなされよと申にいくらさがしても一向御座らぬと
云時宿の亭主は
若々貴公の
裾の下から何か
紐が見えます夫ではなきやと
言れて夫はと云ながら客人は
内懷中へ手を
裏の方の屋根が少し損じたから其の内に
修繕させます、お前さんは能く毎日寒さ橋へお
出なさる、此の寒いのに名さえ寒さ橋てえんだから
嘸ぞお寒かろう、ピュー/\風で、
貴公はお
幾歳です
上げ
譯と申すは
云々ならん彼の
夢の事より衣類并に
庭の石に血の
跡があつた夫が
證據に
入牢せし事迄
落もなく
咄し女心の十方に
暮如何致して
宜らんか今日
貴公のお宅へ出向き御
相談を
願はんと支度を
頼むサア/\山崎町へ行油屋へ
押込で遣らんと云故長兵衞と久五郎の兩人は
甚だ
心配なし
先生貴公の
御氣象では
御立腹なさるゝも
御道理なれど先々
能咄合て大ぎやうにならぬ樣に
懸合が宜しく何れにも明日の事に致す
積りなれば
兎も
角も
御鎭まり下されよと漸々に
宥めけり