いざの)” の例文
村役場の吏員か警察署員をいざのうて、偽の埋葬認可証を出してもらって、村人たちを欺いて、母の偽の葬式を営んだのでしょう。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
季節の変り目にこの平原によくある烈しい西風が、今日は朝から雨をいざのうて、硝子がらす窓に吹きつける。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「君は何方どちらなんです、牛といも、エ、薯でしょう?」と上村は知った顔に岡本の説をいざのうた。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
然るに今日において、未だ男子の奔逸ほんいつばくするの縄は得ずして、先ずこの良家の婦女子をいざのうて有形の文明に入らしめんとす、果たして危険なかるべきや。きょを移すという。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
此方こっちが火を消したならば、おそらく勢いを得て突出とっしゅつして来るであろう。そこを待受まちうけて囲み撃つという計略であった。守ること固きものはいざのうてこれを撃つ、我が塚田巡査は孫子そんし兵法へいほうを心得ていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
田畠でんぱたに仕上げるのと同じことです、少なくとも我々は、今のうちに夢を見て置かなければならないでしょう、まだまだ夜と朝とは、我々をいざのうていにしえの夢を見せるに足るの琵琶湖であり得ることを
それは初夏のもの悩ましいわかい男の心を漂渺ひょうびょうの界にいざのうて往く夜であった。その時は水際みずぎわに近い旅館へわざわざ泊っていた。その旅館の裏門口ではやはり今晩のように巡航船の汽笛の音がうるさく聞えた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
試みにこれを歴史に徴するに、義気凜然りんぜんとして威武も屈するあたわず富貴もいざのう能わず、自ら私権を保護して鉄石の如くなる士人は、その家にるや必ず優しくして情に厚き人物ならざるはなし。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と言って、紇をいざのうて中へ入った。
美女を盗む鬼神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)