言質げんち)” の例文
信長の言質げんちと、圧切へしきりの一刀を持って、官兵衛はひとまず城を退がった。城内城下はこの日も来往の諸大将とその兵馬で輻輳ふくそうしていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はじめから支配者である役人どものその場あたりの言質げんちに偽りがあったとしてもむを得ない。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
山好きの友人から上高地かみこうち行をすすめられる度に、自動車が通じるようになったら行くつもりだといってげていた。その言質げんちをいよいよ受け出さなければならない時節が到来した。
雨の上高地 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「ちょ、ちょっと待った! 腹の空いておったときにいったことは、言質げんちにならんぞ。」
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
宮様御降嫁の当時から外夷がいい防禦ぼうぎょを誓い、諸外国と取り結んだ条約を引きもどすか、無法な侵入者を征伐するか、いずれかを選んで叡慮えいりょを安んずるであろうとの言質げんちが与えてある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何も言質げんちを取られている覚えはないが、今度は夫の考が前と変って来ているとすれば、尚更なおさら注意して物を云わなければならない、私達は二人の結婚の邪魔をする気はないけれども
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「三カ条は呉れてやる、呉れなければ国老にはならぬ、という言質げんちを取ったうえでだ」
さも誠意らしい言葉の裏に、実は、いっこう相手に要領をつかませず、言質げんちも取られぬように、巧みに、自己をぼかして終るのが、家康のよくやる奥の手なのである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「仰せのまま、それがしはかく認めましたが、もし軍師のおことばと違い、曹操が華容道へ逃げてこなかったら、その場合、軍師ご自身は、何と召されるか」と、言質げんちを求めた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、そこまで突っこんだ言質げんちを取るには、彼には彼のとおしがあったからでもある。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こちらからのみ、言質げんちを提供して、織田家からは、いかなる誓紙を持ち帰られたか」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もちろんあやまりつづけてきた。だが、たびかさなると自然両者の間に言質げんちみたいなものが生じたり自己の中にも書く気はないのに描くばかりな構想などをつい持ってしまうものである。
まだ襖も入らない三重の廊下に床几をすえて、瀬田せた比良ひら、また湖水一面の眺望を、すでにほしいままにしながら、信長はまたしても、長秀から期日の言質げんちを取ろうとするような口吻である。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いくらそッちで嫌っても、老人の言質げんちを取ってある上に、すでに夜光の短刀のある場所は、着々として、拙者が調べをすすめているから、久米之丞の妻にならぬというわけにはまいるまい」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分があんな苦心をして一方を誘ってきたのは一体なんのためかと歯がゆくもなり焦々じりじりと思うのでもあったが、夜が白みかけては一大事をかもおそれがあると、姫にかわって次に来る夜の言質げんちをとって
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
固い言質げんちをとられている!
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)