行届ゆきとど)” の例文
旧字:行屆
既に幾たびも君が学資に窮して、休学のむを得ざらんとするごとに、常にフランス文の手紙がそって、行届ゆきとどいた仕送しおくりがあったではないか。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薬ばかり飲ませても食物が病気に不適当であったら療治も行届ゆきとどくまい。僕はおおいに食餌療法の実行を我邦の医者に勧告しようと思うね
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
娘の酌の手振りは見事ですが、口数は至って少く、多くはその多彩な表情と、行届ゆきとどいた動作で返事をするといった有り様です。
伸太郎 成程お前は一家の女主人としては実によく行届ゆきとどく。店の仕事から奉公人の指図、台所から掃除洗濯、近所交際づきあい、何一つとして手抜てぬかりはない。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
僕は、ふらふらする足を踏みしめて、清潔に掃除の行届ゆきとどいている地下舗道を下りていった。すぐ改札口に出る。僕は、リーマン博士から渡された切符を見せる。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼が持っていた抱負、志向、希望、前途がただ一筆で棒引されてしまった。閑人のおれが行届ゆきとどいて、小D、王鬍などに話の種を呉れたのは、やっぱり今度の事であった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
そしてその足音は鐘の鳴った方面から始まったとまで、この話の観察は行届ゆきとどいている。そして鐘の音が一つボーン……と鳴ると、その怪しの足音は一方へ動く。また一つ鳴るとまた動く。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
情愛の行届ゆきとどいた、いかにも手際てぎわの良い演奏だ。トスカニーニの指揮したのも異色あるレコードだが(ワグナー名曲集)、多少この人らしい素気そっけなさがあるだろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「ええ、混雑ごたごたいたしまして、どうも、その実に行届ゆきとどきません、ひらに御勘弁下さいまして。」
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あまりにもよく行届ゆきとどいた文章、誰の仕業しわざともわかりませんが、万田龍之助ゾッと肌寒さを覚えました。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「や、もう大破たいはでござって。おもりをいたす仏様に、こう申し上げては済まんでありますがな。ははは、私力わたくしちからにもおいそれとは参りませんので、行届ゆきとどかんがちでございますよ。」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行届ゆきとどいた愛情と、聡明な理解で、「マンドリン」や「月光」や「夢の後」や「悲しき歌」やら、この上もなく優しく美しく、ほんのりした皮肉と、フランスらしい粋な陰影で
呼鈴よびりんまで行届ゆきとどき、次の間の片隅には棚を飾って、略式ながら、薄茶の道具一通。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「序曲」ではフルトヴェングラーのベルリン・フィルハーモニーを指揮したポリドールのレコード(四五二一三—四)は吹込みははなはだ古いが、雄大で行届ゆきとどいて一番良く入っている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
世にただ一人となって小児こどもと一所に山にとどまったのはご坊が見らるる通り、またあの白痴ばかにつきそって行届ゆきとどいた世話も見らるる通り、洪水の時から十三年、いまになるまで一日もかわりはない。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まア、いやに行届ゆきとどくんだね」
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)