行処ゆきどころ)” の例文
旧字:行處
そのまるい帽子の影はやが木隠こがくれて見えなくなつたが、ミハイロは背後うしろで手を組むで、まだ立つてゐる。何処へ行処ゆきどころもない。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
門々かどかどの松は除かれて七八日ななやうかも過ぎぬれど、なほ正月機嫌きげんの失せぬ富山唯継は、今日も明日あすもと行処ゆきどころを求めては、夜をに継ぎて打廻うちめぐるなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この頃はひまだからと、早速がりを食ってやっこさん行処ゆきどころなし、飲んだ揚句なり、その晩はとうとうお宮の縁の下に寝ましたッさ。この真似もまた宜しくねえてね。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行処ゆきどころのない身寄りだから逃げてゆかないという信状で、驕慢きょうまんの頂上にいた花菊は無理我慢の出来るたけをしいた。無論他の者へも特別優しかったわけではない。
圖書に捨てられては行処ゆきどころのない心細い処から、手灯てとぼしけてそうっと抜足して縁側へ出て、昼のうち見て置いた三尺の開きを明けて、書棚の両方に手をかけて押すと、ギーと廻る。
宗吉は学資もなしに、無鉄砲に国を出て、行処ゆきどころのなさに、その頃、ある一団の、取留めのない不体裁なその日ぐらしの人たちの世話になって、辛うじて雨露うろしのいでいた。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するのだね、うも怖ろしい人じゃアないか、腹立紛れに打ったのは悪いと謝まるじゃアないか、こんな峠へ来て何だねえ、私を見捨てゝ行処ゆきどころのない様にして何うする気だねえ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なんだネ新どん、気違じみて、お前さんも私も奉公して居る身の上でそんな事をして御主人に済みますか、其の事が知れたらお前さんは此のうちを出ても行処ゆきどころが無いじゃアありませんか
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
行処ゆきどころがないかと思うと、その頃の東京は、どんな隅にも巣がありました。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ついてはあまおらの嫁に貰えてえと思って、段々手なずけた処が、当人もまんざらでもえようで、謎をかけるだ、此の病人が死んでしまえば、行処ゆきどころもねえ心細い身の上でございますと云うから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)