蝉脱せんだつ)” の例文
私の詩が安全弁的役割から蝉脱せんだつして独立の生命を持つに至るかどうか、それは恐らくもっと後になってみなければ分らない事であろう。
自分と詩との関係 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
しかしながら、専制的支配を必要とする傭兵であったため、十八世紀中には遂にこの横隊戦術から蝉脱せんだつする事が出来なかった。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
一九〇九年型の女優が一九三四年式のぴちぴちした近代娘に蝉脱せんだつした瞬間のスリルがおそらくこの作者の一番の狙いどころではないかと思われる。
映画雑感(Ⅴ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
が、間もなくその馬鹿馬鹿しさに気が付いて四五篇でその型から蝉脱せんだつすることに骨を折るようになった筈である。
捕物小説のむずかしさ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
いかなロマンチストでも簡単に自己蝉脱せんだつは出来ないのであるから、或る意味ではやはり元の作家A・B・C氏であることは避け難い現実としなければならない。
文学の大衆化論について (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
初めは何人なんぴといえども甘いものを好み、ようやく成長するに及んでは、砂糖の多い物即ち美味なりとするが如き幼穉ようちの境を蝉脱せんだつして、甘味即美味の妄なるを不知不識の間に会得し
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自由に腕をふるうことのできるポストが待っている。その土地に於ける自分の行動にはあやまりが無いものと思っていた。云うならば、彼もまた、卒然として蝉脱せんだつして官僚になったのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
詩が内容の上にも形式の上にも長い間の因襲を蝉脱せんだつして自由を求め、用語を現代日常の言葉から選ぼうとした新らしい努力に対しても、無論私は反対すべき何の理由もたなかつた。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その原始的な物真似から蝉脱せんだつして来た表現の進化が、如何に甚しいかがわかる。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なんで慈円僧正のような人がそんな愚をなそうか、僧正はすでにたまである、明朗と苦悩のいきをとうに蝉脱せんだつした人格は、うしろから見ても、横から見ても、「禁慾の珠玉」そのものである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暗黒の中の光明、苦悩を蝉脱せんだつする献身も、やがてそこから生ぜねばならない。
セメントの新道路を逍遥して新しき時代の深川を見る時、おくれせながら、わたくしもまた旧時代の審美観から蝉脱せんだつすべき時のきたった事を悟らなければならないような心持もするのである。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何の得る所なき自己陶酔、キザな神様気取りの、聖者気取りの穀潰ごくつぶしが、一人出来上るだけである。日本国民は、一時も早くそんな陋態ろうたいから蝉脱せんだつして、一歩一歩向上の生きた仕事に従わねばならぬ。
どうかすると蝉脱せんだつした老僧のような感じをさえ与えるのだった。
足軽奉公 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あらゆる知識の塵の中から蝉脱せんだつして
詩が内容の上にも形式の上にも長い間の因襲を蝉脱せんだつして自由を求め、用語を現代日常の言葉から選ぼうとした新らしい努力に対しても、むろん私は反対すべき何の理由ももたなかった。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
磯長しながの聖徳太子のびょうに籠って厳寒の一夜を明かした折に、そこの叡福寺えいふくじに泊っていた一人の法印と出会って、互いに、求法ぐほうの迷悟と蝉脱せんだつの悩みを話しあって別れたのは、もう十年も前のことである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蝉脱せんだつ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)