藤棚ふぢだな)” の例文
池から家へ帰つて来ると、三人は心もからだも、くたくたに疲れてしまつたので、藤棚ふぢだなの下の縁台えんだいに、お腹をぺこんとへこませて腰かけてゐました。
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
大正十二年八月、僕は一游亭いちいうていと鎌倉へき、平野屋ひらのや別荘の客となつた。僕等の座敷の軒先のきさきはずつと藤棚ふぢだなになつてゐる。その又藤棚の葉のあひだにはちらほら紫の花が見えた。
プールの外囲そとがこひ欄干らんかんをくぐり出て、藤棚ふぢだなの下で着物を着かゝると、突然、ワツといふ叫び声と、パチパチと手をたたく音とが、プールの内と外とから、一度にあがりました。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
三十一日さんじふいちにち小田原をだはら見物けんぶつ遊女屋いうぢよやのきならべてにぎやかなり。蒲燒屋かばやきやのぞ外郎うゐらうあがなひなどしてぼんやりとほる。風采ふうさいきはめて北八きたはちたり。萬年町まんねんちやうといふに名代なだい藤棚ふぢだな小田原をだはらしろる。
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はなはづかしく藤棚ふぢだな
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
僕等は暖簾のれんをかけた掛け茶屋越しにどんより水光りのする池を見ながら、やつと短い花房を垂らした藤棚ふぢだなの下を歩いて行つた。この掛け茶屋や藤棚もやはり昔に変つてゐない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)