落窪おちくぼ)” の例文
「かつて大橋訥庵とつあんがこうった、独怪謝安出山後、更無偉略済蒼生、と」梅田定明は頬骨の高い眼の落窪おちくぼんだ顔をつきだすようにしてそう云った
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのころ私は毎晩母のふところいだかれて、竹取のおきなが見つけた小さいお姫様や、継母ままははにいじめられる可哀かわいそうな落窪おちくぼのお話を他人事ひとごととは思わずに身にしみて
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「はて、面妖めんような。只事ただごとでない。」と家令を先に敷居越し、恐る恐るふすまを開きて、御容顔を見奉れば、徹夜の御目おんめ落窪おちくぼみて、御衣服おめしものは泥まぶれ、激しき御怒おいかりの気色あらわれたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒い薬を顔一面に塗抹とまつして、黒い仮面のやうな、さうして落窪おちくぼんだ眼ばかりが光つて、その病床の傍へ来てはならないと、物憂げに手を振つた怪物のやうな母の顔であつた。
ひげの延びた長いあごの、目の落窪おちくぼんだ川西の顔が、お島の目には狂気きちがいじみて見えた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
蓬々ほうほうとした髪の毛の白くなったさまは灰か砂でも浴びたようにじじむさく、以前ぱっちりしていただけ、落窪おちくぼんだ眼は薄気味のわるいほどぎょろりとして、何か物でも見詰めるように輝いている。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふと母の頬が、——二日の間に青白くしなびてしまった頬が、ほのかにではあるがうす赤く染まって行ったかと思うと、その落窪おちくぼんだ二つの眼から、大粒の涙がほろ/\と、止めどもなくでた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
うちかがむ毛のにこものの黒きかげ葱はかがよふ月夜つきよ落窪おちくぼ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほらあなめきし落窪おちくぼ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
鳥打のひさしから、落窪おちくぼんだ目ばかりがぎろりと薄気味わるく光っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
若い武士の唇にはしずかな微笑がうかんだ。日は経っていった、彼の頬やあごは濃いひげで蔽われ、深い両眼は益々深く落窪おちくぼんだ。いまでは静坐にも馴れて、半日あまりは身動きもせずに坐っていられる。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
うちかがむ毛のにこものの黒きかげ葱はかがよふ月夜つきよ落窪おちくぼ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほらあなめきし落窪おちくぼ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)