荷厄介にやっかい)” の例文
社交と、偽善と、虚礼と、駈引かけひきと、繁雑はんざつきわまる現代生活は、ドヴォルシャークにとっては、相当荷厄介にやっかいなものであったに違いない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
どういうつもりか、今までそれを荷厄介にやっかいにしているという事自身が、津田に対しての冷淡さを示す度盛どもりにならないのは明かであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
比較的小作料の低廉な此辺の大地主は、地所を荷厄介にやっかいにして居る。また大きな地主でちと派手はでにやって居る者に借金が無い者はほとんどない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
だが、紋三はここでも別段にる所はなかった。彼はいい加減に話を切上げて、せんべいのふくろを荷厄介にやっかいにしながら電車道の方へ歩いた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二葉亭の家では主人の次には猫が大切だいじにされた。主人の留守に猫に粗糙そそうがあっては大変だといって、家中うちじゅうがどれほど猫を荷厄介にやっかいにして心配したか知れない。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
表紙に各郡村誌と題した無巻次の数百冊で、目録が備わっていなかったのみならず、誰でもこれを荷厄介にやっかいにして、一人としてその価値を認める者がなかった。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
母は、いかにもこの相手が荷厄介にやっかいらしく、なんだか滅入めいったような気乗りのしない調子で、しぶしぶ受け答えをしていた。父は時たま、かすかにまゆの根をひそめた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
途中や戦場での荷厄介にやっかいが予想されるし、かたがた、兄の子に、万一があってはと大事をとって
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瓶が少々荷厄介にやっかいになって来ている。折角の贈物だから、捨てるわけには行かない。五郎は栓を抜き、一口含んだ。甘ったるく強烈なものが、食道を伝って胃に降りて行くのが判る。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
この場合、第一の禁物は犬を怒らせたり驚かしたりすることだ。こっちには貴重品だが、犬にとってはなんでもない。すでに荷厄介にやっかいになっていて、いつ気が変わってみ破るかもしれないのだ。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
なに、かえって荷厄介にやっかいになります。同じ濡れるなら、このほうが気楽。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これで僕の財政は非常に余裕ができるわけです。今まで店がなかったばかりに、取り寄せても荷厄介にやっかいだったものですが、ハミルトン氏の店で取り扱ってくれれば相当に売れるのはわかっています。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
出していじってみるのが関の山で、いまでは荷厄介にやっかいです。
寒月はにやにや笑いながら例のごとく羽織のひも荷厄介にやっかいにしている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)