臭味くさみ)” の例文
素敵に美味うまい上に、素敵に臭味くさみをもつてゐる果物で、一度でもあの臭味をいだが最期、一生懸つたつて、それが忘れられる物ではない。
右門には、そんな臭味くさみは気にならない。唯々いいとして呼びに行った。又十郎はすぐそこへやって来たが、長兄あにの十兵衛は
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仏人は仏語をそれ/″\エスペラントに引直して用ゐるから、英人のエスペラントには英語の臭味くさみがあり、仏人は仏語、独逸人は独逸語の臭味がある。
エスペラントの話 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
駄目だめだ、焦臭こげくさくしツちやつた、さけわかすのにやへねえどうもをつけなくつちや、さけちやはちつとでも臭味くさみうつらさんだから」小柄こがらぢいさんは茶碗ちやわん
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ごうも技巧の臭味くさみなしに、着々成功して行く段取だんどりを、一歩ごとに眺めた彼女は、自分の天性と夫人のそれとの間に非常の距離がある事を認めない訳に行かなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分の藝が一度踏み入つた境から何うしても脱れる事の出來ない一とつの臭味くさみを持つてゐる事をつく/″\感じながら、とう/\筆を投げてしまつたその書きかけなのであつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
(余の友人板倉氏の説に国貞の風俗画の佳良なるものは歌麿の画題と布局とをそのままに模写したるもの多しとぞ。)余は国貞の板画においては必ず粉本ふんぽん臭味くさみを感ずるに反し
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
旧家屋の構造様式が徳川末期の江戸風のもので、それがちょっとした旗本の隠居所とも思われるものであったとすれば、新築はどこか明治の役人向きの臭味くさみに染ったものであった。
始めのうちは珍らしさにまぎれていた臭味くさみがだんだんとわかって来てうんざりした、嫌になった、飽き飽きしたという、多少前の「鼻じろむ」というのと似通ったような表現であります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
同時にいくら糊細工のりざいく臭味くさみが少くても、すべての点において存在を認むるに足らぬ事実や実際の人間を書くのは、同等の程度において駄目だめである。花袋君も御同感だろうと思う。
田山花袋君に答う (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
言葉をかへていふと、早稲田の臭味くさみ大分だいぶんれてゐた。
したがって文芸のうちでも道徳の意味を帯びた倫理的の臭味くさみを脱却する事のできない文芸上の述作についてのお話と云ってもよし、文芸と交渉のある道徳のお話と云ってもよいのです。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)