そよ)” の例文
そよとの風も無い。最中過さなかすぎの八月の日光が躍るが如く溢れ渡つた。氣が附くと、畑々には人影が見えぬ。丁度、盆の十四日であつた。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
後に負へる松杉の緑はうららかれたる空をしてそのいただきあたりてものうげにかかれる雲はねむるに似たり。そよとの風もあらぬに花はしきりに散りぬ。散る時にかろく舞ふをうぐひすは争ひて歌へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そよとの風も無い。最中過さなかすぎの八月の日光ひかげが躍るが如く溢れ渡つた。気が付くと、畑々には人影が見えぬ。恰度、盆の十四日であつた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
脳天をあぶりつける太陽が宛然まるで火の様で、そよとの風も吹かぬから、木といふ木は皆死にかかつた様に其葉を垂れてゐた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
腦天をりつける太陽が宛然まるで火の樣で、そよとの風も吹かぬから、木といふ木が皆死にかかつた樣に其葉を垂れてゐた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
午中ひるなか三時間許りの間は、夏の最中にも劣らぬ暑氣で、澄みきつた空からはそよとの風も吹いて來ず、素足の娘共は、日に燒けた礫の熱いのを避けて、軒下の土の濕りを歩くのであるが
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
午中ひるなか三時間許りの間は、夏の最中もなかにも劣らぬ暑気で、澄みきつた空からはそよとの風も吹いて来ず、素足の娘共は、日に焼けたこいしの熱いのを避けて、軒下の土の湿りを歩くのであるが
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そよとの風も吹かぬ。地球の背骨の大山脈から、獅子の如く咆えて來る千里の風も、遮る山もなければ抗ふ木もない、此曠野に吹いて來ては、おのづから力が拔けて死んで了ふのであらう。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
開け放した窓から時々戸外そとを眺めるが、烈々たる夏の日は目も痛む程で、うなだれた木の葉にそよとの風もなく、大人は山に、子供らは皆川に行つた頃だから、四周あたりが妙に静まり返つてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)