置土産おきみやげ)” の例文
憎さも憎し、私はもう悔くて、悔くて、狭山さん、実はね、私はこの世の置土産おきみやげに、那奴の額を打割ぶちわつて来たんでさね
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
芭蕉の伝記もあらゆる伝記のやうに彼の作品を除外すれば格別神秘的でも何でもない。いや、西鶴の「置土産おきみやげ」にある蕩児たうじの一生と大差ないのである。
続芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
アア、何という不吉な置土産おきみやげだ。余りにも念入りなこの悪戯が、何か恐ろしい出来事の前ぶれでなければよいが。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
最後に——トム公が跳んで降りたすがたを認めると、大胆なる馭者は、びしりッと置土産おきみやげにひと鞭くれて、谷戸橋やとばしのたもとで、ぽんと、地上へからだを交わした。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
びんほつれを、うるさそうにかきあげしそのくしは吉次の置土産おきみやげ、あの朝お絹お常の手に入りたるを、お常は神のお授けと喜び上等ゆえ外出行よそゆきにすると用箪笥ようだんすの奥にしまい込み
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
……さん子さん、一寸ちょっとうたつており。村方むらかたで真似をするのに、いゝ手本だ。……まうけさしてもらつた礼心れいごころに、ちゃんとしたところを教へてあげよう。置土産おきみやげさ、さん子さん、お唄ひよ。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
取り返しが付かぬどころの騒ぎじゃない。飛び出しがけの置土産おきみやげ巨大おおきな穴でもコジ明けられた日には、本家本元の船体が助からない。シャフトのアトからブクブクブクと来るんだ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お兄様が洋行をなさる時、女学校入学前の私に置土産おきみやげとして下すった『湖月抄こげつしょう』は、近年あまり使わなかったので、きりの本箱一つに工合よく納めてあったのを、そのまま出しました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
狭い室内だから塵はたちまち室内に飛び廻って久しく下へ落付きません。ボーイは大きな紙屑かみくず土瓶どびんこわれや弁当とすし明箱あきばこなんぞを室外へ掃き出しますが塵と細菌はそのまま置土産おきみやげにします。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
同時に郵便箱には、置土産おきみやげの新聞の音が素早く起つた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
油烟斎貞柳ゆえんさいていりゅうが『置土産おきみやげ』等あり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
殿村は相手を恥かしがらせはしないかとビクビクしながら、置土産おきみやげのつもりで忠告めいたことを口にした。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
せめてもの置土産おきみやげにといろいろ工夫したあげく櫛二枚を買い求めふところにして来たのに、幸衛門から女房をもらえと先方は本気か知らねど自分には戯談じょうだんよりもつまらぬ話を持ち出されてまず言いそこね
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ホンの置土産おきみやげのつもりで書いているのだ。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それがわたし相応の置土産おきみやげなのだらう。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
彼奴あいつが逃出す時、置土産おきみやげに残して行ったのだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)