編上あみあげ)” の例文
俊助は手ばしこく編上あみあげの紐をからげると外套を腕にかけたまま、無造作むぞうさに角帽を片手につかんで、初子のあとからくぐり門の戸をくぐった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
千恵は何べんも足を滑らせさうになりましたが(ほら、母さまもご存じのあの古いゴムの編上あみあげ靴をはいてゐたのです——)
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
実際彼女は三四日さんよっか前に来た時のように、編上あみあげだのたたみつきだのという雑然たる穿物はきものを、一足も沓脱くつぬぎの上に見出みいださなかった。患者の影は無論の事であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところがこの間靴を誂えに行って、『今度は一つ編上あみあげにして見ようか?』と僕が言うと、番頭の奴め、『矢張り深ゴムが宜しゅうございますよ。お年を召したお方は皆様深ゴムでございます』
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼は変なあいさつをして、そそくさと編上あみあげのひもを結んだ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
津田はもし懐中が許すならば、真事まことのために、望み通りキッドの編上あみあげを買ってやりたい気がした。それが叔父に対する恩返しの一端になるようにも思われた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は和服に、新しい黒の編上あみあげ靴をはいてゐる。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
私は寝坊ねぼうをした結果、日本服にほんふくのまま急いで学校へ出た事があります。穿物はきもの編上あみあげなどを結んでいる時間が惜しいので、草履ぞうりを突っかけたなり飛び出したのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其中そのうち綺麗きれい支那製しなせい花籃はなかごのなかへ炭團たどん一杯いつぱいつてとこかざつたと滑稽こつけいと、主人しゆじん編上あみあげくつのなかへみづんで、金魚きんぎよはなしたと惡戲いたずらが、宗助そうすけには大變たいへんみゝあたらしかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私が靴を脱いでいるうち、——私はその時分からハイカラで手数てかずのかかる編上あみあげ穿いていたのですが、——私がこごんでその靴紐くつひもを解いているうち、Kの部屋では誰の声もしませんでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)