竪川たてかわ)” の例文
本所竪川たてかわ通り、二つ目の橋のそばに屋敷を構えている六百五十石取りの旗本、小栗昌之助の表門前に、若い女の生首なまくびさらしてありました。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蒼黒く石垣を浸している竪川たてかわの水を見渡して、静に何か口の内で祈念しているようでしたが、やがてその眼を新蔵に返すと、始めて、嬉しそうに微笑して
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それで自分は、天神川の附近から高架線の上を本所ほんじょ停車場に出て、横川に添うて竪川たてかわ河岸かし通を西へ両国に至るべく順序をさだめて出発した。雨も止んで来た。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
父の水泳場は父祖の代から隅田川すみだがわ岸に在った。それが都会の新文化の発展に追除おいのけられ追除けられして竪川たてかわ筋に移り、小名木川おなぎがわ筋に移り、場末の横堀よこぼりに移った。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
本所ほんじょ竪川たてかわ深川ふかがわ小名木川辺おなぎがわへんの川筋には荷足船にたりぶねで人を渡す小さな渡場が幾個所もある。
渋江氏の一行は本所二つ目橋のほとりから高瀬舟たかせぶねに乗って、竪川たてかわがせ、中川なかがわより利根川とねがわで、流山ながれやま柴又しばまた等を経て小山おやまいた。江戸をることわずかに二十一里の路に五日をついやした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今日は竪川たてかわ伝馬てんまが詰っちまってな、高橋たかばしまで五時間もかかっちまっただよ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
万延元年六月の末頃から本所ほんじょう竪川たてかわ通りを中心として、その附近にたくさんの白い蝶が群がって来た。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天神川もあふれ、竪川たてかわも溢れ、横川も溢れ出したのである。平和は根柢こんていから破れて、戦闘は開始したのだ。もはや恐怖も遅疑も無い。進むべきところに進むほか、何をかえりみる余地も無くなった。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
秋山と森谷にあらましの事情を語り、乗った通船が竪川たてかわをはしりだしてから、私は沿岸の風景を眺めながら思った。留さんは年も取っていないようだし、人の好さもあのころのままらしい。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
隅田川はいうに及ばず神田のお茶の水本所ほんじょ竪川たてかわを始め市中しちゅうの水流は、最早もはや現代のわれわれには昔の人が船宿ふなやど桟橋さんばしから猪牙船ちょきぶねに乗って山谷さんやに通い柳島やなぎしまに遊び深川ふかがわたわむれたような風流を許さず
人通りの少い竪川たてかわ河岸を二つ目の方へ一町ばかり行くと、左官屋と荒物屋との間にはさまって、竹格子たけごうしの窓のついた、煤だらけの格子戸造りが一軒ある——それがあの神下しの婆の家だと聞いた時には
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今日は竪川たてかわ伝馬てんまが詰っちまってな、高橋たかばしまで五時間もかかっちまっただよ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
秋山と森谷にあらましの事情を語り、乗った通船が竪川たてかわをはしりだしてから、私は沿岸の風景を眺めながら思った。留さんは年も取っていないようだし、人のさもあのころのままらしい。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)