稗蒔ひえまき)” の例文
半七がいつもよりも少し朝寝をして、楊枝ようじをつかいながら縁側へ出ると、となりの庭の柘榴ざくろの花があかく濡れていた。外では稗蒔ひえまきを売る声がきこえた。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
例ふれば窓辺に稗蒔ひえまき、軒端へは釣忍、また鮑ツ貝に虎耳草ゆきのしたの花白きをかゝげては愛づるがごとくに。
山の手歳事記 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
駄菓子屋のぐッたりした日よけ、袋物屋の職人のうちの窓に出したぽつんとした稗蒔ひえまき……遠く伝法院の木々の蝉が、あらしのように、水の響きのようにしずかに地にしみた。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
今いふた窓が東向きの窓ならば、それに接して折曲つた方の北側は大方壁であつて、その高い処に小さな窓があけてあつて、その窓には稗蒔ひえまきのやうな鉢植が一つ置いてある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
芋莄ずいきなびく様子から、枝豆の実る処、ちと稗蒔ひえまき染みた考えで、深山大沢しんざんだいたくでない処は卑怯ひきょうだけれど、くじらより小鮒こぶなです、白鷺しらさぎうずらばん鶺鴒せきれいみんな我々と知己ちかづきのようで、閑古鳥よりは可懐なつかしい。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
初は隣家の隔ての竹垣にさえぎられて庭をなかばより這初はいはじめ、中頃は縁側へのぼッて座舗ざしきへ這込み、稗蒔ひえまきの水に流れては金瀲灔きんれんえん簷馬ふうりん玻璃はりとおりてはぎょく玲瓏れいろう、座賞の人に影を添えて孤燈一すいの光を奪い
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
稗蒔ひえまきですよ——往来を通る人が皆な妙な顔をして見て行きます」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
駄菓子屋のぐったりした日よけ、袋物屋の職人のうちの窓に出したぽつんとした稗蒔ひえまき……遠く伝法院の木々の蝉が、あらしのように、水の響きのようにしずかに地にしみた。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
いたづらたるものは金坊きんぼうである。初めは稗蒔ひえまきひえの、月代さかやきのやうに素直にこまかく伸びた葉尖はさきを、フツ/\と吹いたり、ろうたけた顔を斜めにして、金魚鉢きんぎょばちの金魚の目を、左から、又右の方からながめたり。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
駄菓子屋のぐッたりした日除、袋物屋の職人のうちの窓にだした、ぽつんとした稗蒔ひえまき、遠く伝法院の木々の蝉が、あらしのように、水の響きのように、しずかに地にしみた。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)