秕政ひせい)” の例文
道誉は、さらに、鎌倉の秕政ひせいや腐敗ぶりをかぞえたてた。武家幕府の基幹である武家すらも、心ある者は、みな離れてゆくと説いた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵部に結べば功なきも賞せられ、兵部に抗すれば罪なきも罰せられたと云ふわけで、秕政ひせいの眼目は濫賞濫罰らんしやうらんばつにあつたらしい。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
非常な怨嗟えんさの的となっていたうえに、もし彼の秕政ひせいを指摘して起つような者があれば、主君の権威にかくれて仮借なくその役を逐い罪におとした。
晩秋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
応仁の乱の責任者として、古来最も指弾されて居るのは、将軍義政で、秕政ひせい驕奢きょうしゃが、その起因をなしたと云われる。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
英蘭イングランドのサクソン諸王の秕政ひせいと内乱とは、フランスのシャアレマンの治世の後に生じた弱点と同様の結果を生み出した1
サア木村父子が新来無恩の天降り武士で多少の秕政ひせいが有ったのだろうから、土着の武士達が一揆を起すに至って、其一揆は中々手広く又手強てごわかった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その秕政ひせいなり失策なりが、それまでともかくも一応は父なり母なり叔父なりの袖にかくれて行はれてきただけに、世の中の不満や非難はしぜん潜勢力の形をとつて
鸚鵡:『白鳳』第二部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「田沼の悪政秕政ひせいについては、おそらく貴殿におかせられても、つとにご承知と存じますが」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一層米価の暴騰を助長した軍閥内閣の秕政ひせいとに対する社会的不平を挙げねばなりません。
食糧騒動について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そのうち道理が非理になって、仁政が秕政ひせいになる。
幕府の秕政ひせいを鳴らし、尊王を叫び攘夷じょういを唱える、聞く者にとってそれが退屈であろうと無味乾燥であろうと構わない、そんなことはどちらでもいい
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それゆゑこの地境の争も、采女が席次の争と同じく、原来ぐわんらい権利の主張ではあるが、采女も安芸も、これを機縁として渡辺等の秕政ひせいに反抗したのである。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
北条幕府のえや秕政ひせいは、世の周知である。——と、するかの如く、高氏の眉がびくともしないのを見ると
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
政治を執る者は変る、後者は前者の秕政ひせいを挙げ、おのれの善政を宣言する。だがそれはかつて実行された例がないし、将来も実行されることはないだろう。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「州へ戻って、慕蓉閣下のまえに罪を詫び、また、文官劉高の日ごろの悪と、偽訴の次第を、事つまびらかに申し上げて、治下の秕政ひせいを正す献策けんさくといたしたい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とも輦轂れんこくもとに住んで、親しく政府の施設を見ようと云ふのである。二人の心底には、秕政ひせいの根本をきはめて、君側くんそくかんを発見したら、たゞちにこれを除かうと云ふ企図が、早くも此時からきざしてゐた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「第一条から第八条まで、江戸家老以下の政治壟断ろうだん、私曲秕政ひせい、収賄涜職とくしょくの事実が挙げてある、これを明日、おまえが御前で読みあげ、記してある重職五名それぞれ永蟄居えいちっきょ、閉門、追放を申渡すのだ」
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)