盃事さかずきごと)” の例文
さてかたばかりの盃事さかずきごとをすませると、まず、当座の用にと云って、塔の奥から出して来てくれたのがあやを十ぴきに絹を十疋でございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
暑い折柄であるにもかかわらず、きちんと紋服を着けて先代の写真を祭り、その前で祖母譲りの方式にって盃事さかずきごとを厳重にしたが
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いよいよこれから盃事さかずきごとに移ろうとするとき、ひろびろとした前栽の松の木の下にぼんやりと浮かびあがったひとの姿。
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
折ふし上巳じょうし節句せっくとて、どこのむすめも女房たちも、桃の昼に化粧けわいをきそい、家の内には、宵にともひなまつりの灯や、盃事さかずきごとの調べなどして、同じあめしたながら
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
花嫁のそばに坐らせてとにかく盃事さかずきごとをすませて、ほっとした途端に、才兵衛はぷいと立ち上って紋服を脱ぎ捨て、こんなつまらぬ事をしていては腕の力が抜けると言い
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「じゃ、瑠璃さん! 彼方あちらへ行きましょう。古風に盃事さかずきごとをやるそうですから、はゝゝゝゝゝ。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
どうしても承知しなかった東作を説き落して、お富との祝言は、いずれ徳之助と縁が切れてから、改めて盃事さかずきごとをするとして、今晩はほんの見合だけ——という事で話をつけたのです。
そは甲寅きのえとらの年も早や秋立ちめし八月末の日なりけり。目出度き相談まとまりて金子翁を八重が仮の親元に市川左団次いちかわさだんじ夫妻を仲人なこうどにたのみ山谷さんや八百屋やおやにてかたばかりの盃事さかずきごといたしけり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
殊に娘も煩う程お前を思っていたのだから、どうか家内だけで、盃事さかずきごとを済ませて置いて、安心させてくださいな、それにお前も飯島の家来では真鍮巻の木刀を差してかなければならん
盃事さかずきごとの済んだ上で、私の命をお召下すっても、少しもうらみには存じません」
といい付け、そうこうするうちに支度も整いましたから、酒肴さけさかなを座敷に取並べ、媒妁なこうどなり親なり兼帯けんたいにて、相川が四海浪静かにとうたい、三々九度の盃事さかずきごと、祝言の礼も果て、ずお開きと云う事になる。