生優なまやさ)” の例文
……わたし身邊しんぺんには、あいにくそんな新造しんぞないが、とにかく、ふくろにして不氣味ぶきみがる。がふくろのこゑは、そんな生優なまやさしいものではない。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
にんじんは、相手の人物をっていた。こんな生優なまやさしいことでは、びくともしない。なんでも来いと覚悟をしているからだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
が、そんな不安はまだ生優なまやさしかった。やがてのこと、不意に、船の心臓ともいうべき機関の音がピタと停ってしまった。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
「左様さ。忍び返しにも疵をつけず、松の枝にもさわらずに、この高塀を乗り越すというのは生優なまやさしいことじゃあねえ」
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
殺されるか殺すかだ! これは生優なまやさしい敵ではない! 助かろうとて助かりっこはない! 生け捕られたらなぶり殺しだ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
当時洋楽に興味と情熱とを持った日本のファンたちの喜びは、今日から想像されるような生優なまやさしいものではない。
このおさまりは、生優なまやさしいことではすみそうもない。どういう成行きになるのかと、百々子が観察しているとき、入り側のそとの庭先で、赤ん坊の泣声がした。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さて『浮雲』の話のついでだが、前に金を取りたい為にあれを作ったと云った。然う云って了えば生優なまやさしい事だが、実はあれに就いては人の知らない苦悶をした事がある。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ほんとの、生きた生活に直面するのに——生きた生活とは、そんな生優なまやさしいものではない。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
どんなにケチな新聞社でも編輯長となると、生優なまやさしい脳髄や精力では勤まるものでない。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「見せるなんて生優なまやさしいことじゃありません。口に出して仰有るんですから厳しいです」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
師匠と会社との間はそんなものじゃァない、自分たちの一座と会社との関係はそんな生優なまやさしいものじゃァない、随分、これまで、会社のためになっている師匠なり自分たちの一座なりだ。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
達雄さんが帰ると言って見たところで、誰も承知するものは無いでしょう。僕も実に気の毒な人だと思っています……ねえ、君、実際気の毒な……と言って、今ここで君等が生優なまやさしい心を
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女ながらも相当教養もあり、日曜学校の教師をしている位だし、夫の為云うまいと決心すれば、生優なまやさしい問い方では口を開く女ではないと見極めをつけた石子は、話題を別の目的の方へ転じた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
驚いたのは市之助夫妻、——たつた一人の娘で、近いうちに婿むこを取ることになつて居るから——と體よく斷わつたが、そんな事で引つ込むやうな生優なまやさしい相手ぢやない
なるほど、それは痛快であろうも、それを言って退けると、生優なまやさしいことではすまなくなる。不実の申述しんじゅつをして裁判を進行結審せしめた廉で、違警罪に問われて監獄に繋がれねばならない。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「忠五郎の口から、いろいろの事がバレそうになって居たんだろう。忠五郎も悪い奴で、重三郎に毒害されて黙って死んで行くような生優なまやさしい人間じゃない——それに」
「忠五郎の口から、いろ/\の事がバレさうになつて居たんだらう。忠五郎も惡い奴で、重三郎に毒害されて默つて死んで行くやうな生優なまやさしい人間ぢやない——それに」
「それが生優なまやさしい命のやり取りぢやありませんよ。馬鹿々々しいの何んのつて」
八五郎兄哥の考へも一と理窟りくつだ。宵に忍び込んで夜中に仕事をする曲者もよくあるためしだが、熊井熊五郎が十年越し荒した跡を一つ/\調べて見ると、そんな生優なまやさしいことぢや無いのだよ。
といふ川柳があるが、そんな生優なまやさしいものぢやありません
銭形平次捕物控:260 女臼 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)