珠玉たま)” の例文
黄金の輿こし珠玉たまくるまもおろかである、女一人に、あまりに冥加みょうがにすぎた迎えであると八雲は思った。闇を走りながら、まぶたの熱くなるのを覚えた。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
願う事のかなわばこの黄金、この珠玉たまの飾りを脱いで窓より下に投げ付けて見ばやといえるさまである。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
恰度ちょうどそのころ、三斎隠居は、わが居間で、例の、珠玉たまいじりをしながら、ふと、考え込んでいた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
天衣無縫と言おうか、鳥道あとなしと言おうか、まるで引っかかりがありません。ただすべすべした珠玉たまでありました。そして当人はそれを無理に努めているようにも見えません。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
含んでいるうちに珠玉たまの溶けてゆくような気持を喜んで、一杯、一杯と傾けている——蚊遣火かやりびけむり前栽せんざいから横になびき、縦に上るのを、じっと見ている様子は、なんのことはない
何ぞ早や、しるしに残るものを、と言うて、黄金こがねか、珠玉たまか、と尋ねさっしゃるとの。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紳士と連れ立った淑女達や、大きな金剛石ダイヤの指輪を飾った俳優じみた青年や、翡翠ひすいの帽子を戴いて、靴先に珠玉たまをちりばめた貴婦人などの散歩するのに似つかわしい街の姿である。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
特に眼瞼まぶたのあたりは滴るやうな美しさで、その中に輝いてゐる怜悧さうなやゝけんのある双の瞳は宛然さながら珠玉たまのやうだ。暑くなつたのだらう、切りに額の汗を拭いて、そしてびんをかき上ぐる。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「わしがはじめて見た時の——いやいやそこ許にはじめて逢うまでの呉羽之介は珠玉たまじゃった」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それはちょうど、一刻、一日ごとに、血まみれな心になって磨いてゆく珠玉たまにひとしい。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蜘蛛の囲の虫晃々きらきらと輝いて、鏘然しょうぜん珠玉たまひびきあり。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
珠玉たまのかんばせに、つねならず血を上らせているのは、心中にむらむらと燃え立ち渦巻く憤怨ふんえんのほむらを、やっとのことでおさえつけているためなのだろうが、しかしよそめには
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
珠玉たまくるま
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蚕豆そらまめほどの大きさから、小さいので小豆粒あずきつぶ位の透きとおり輝く紅玉の珠玉たまを、一つ一つ、灯にかざしては、うこんの布で拭きみがき、それを青天鵞絨あおビロード張りの、台座にめながら
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)