狩野派かのうは)” の例文
その時、茂太郎は持って来た行燈を片隅に置くと、そこは本堂の一部の細長い部屋で、壁には狩野派かのうはの山水がいっぱいに描かれてある。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女はおよごしになって、立て切った障子しょうじを、からりとける。内はむなしき十畳敷に、狩野派かのうは双幅そうふくが空しく春のとこを飾っている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雪之丞がおとなうと、直ぐに、書斎に通された。武芸者の居間に似合わず、三方は本箱で一杯で、床には、高雅こうが狩野派かのうはの山水なぞが掛けられている。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
お声に応じて、横手の、唐子からこたわむれている狩野派かのうはをえがいた塗り扉をあけて、ひょっくりあらわれた人物を見ると、……誰だってちょっとびっくりするだろう。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
土佐派狩野派かのうはなどいふ流派さかんになりゆき古の画を学び師の筆をするに至りてまた画に新趣味といふ事なくなりたりと覚ゆ。こは画の上のみにはあらず歌もしかなり。(二月一日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
宗渓は狩野派かのうはから出て、大和絵ふうを加えた独特の一派をひらいたが、あまり世間に迎えられず、どちらかというと不遇の人であった。栄三郎は十六の年から八年ばかり教えを受けた。
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
池の坊を家元とする形式派は、狩野派かのうはに相当する古典的理想主義をねらっていた。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
道人どうじんは薄赤い絹を解いて、香炉こうろの煙に一枚ずつ、中の穴銭あなせんくんじたのち、今度はとこに懸けたじくの前へ、丁寧に円い頭を下げた。軸は狩野派かのうはいたらしい、伏羲文王周公孔子ふくぎぶんおうしゅうこうこうしの四大聖人の画像だった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
定家を狩野派かのうはの画師に比すれば探幽たんゆうと善く相似たるかと存候。定家に傑作なく探幽にも傑作なし。しかし定家も探幽も相当に練磨の力はありて如何なる場合にもかなりにやりこなし申候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
狩野派かのうはで橋本雅邦という名人の卵や、浅田信興という関東武士の黒焼のようなものも出かかっている、なかでも川越三喜ときちゃあ、わが党の方でも大したもので、立派にやぶの域を脱している。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)