点頭てんとう)” の例文
旧字:點頭
莞然にっこりともせず帽子も被ッたままで唯鷹揚おうよう点頭てんとうすると、昇は忽ち平身低頭、何事をか喃々くどくどと言いながら続けさまに二ツ三ツ礼拝した。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
するとどこからか大井篤夫おおいあつおが、今日は珍しく制服を着て、相不変あいかわらず傲然ごうぜんと彼の側へ歩いて来た。二人はちょいと点頭てんとうを交換した。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
クルマユリは、その葉が車輪状しゃりんじょうをなしているので、この名がある。花は茎梢けいしょうに一花ないし数花点頭てんとうして咲き、反巻はんかんせる花蓋面かがいめんに暗点がある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
フリッツは矢張むずかしい顔をしたまま、それでもちらと振り返って点頭てんとうして見せたが、直ぐ又舞台の方へ向き直った。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
れ馬琴が腔子裏こうしりの事なりといえども、かりに馬琴をして在らしむるも、が言を聴かば、含笑がんしょうして点頭てんとうせん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
都貌みやこがほあり、田舎相ゐなかがほあり、ひげあり、無髯あり、場馴れしあり、まごつくあり、親しきは亭主夫婦と握手して、微笑してかはす両三言、さもなきは小生と同様すましかへつた一点頭てんとう、内閣大臣
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
広子は小首こくびを傾けながら、時々返事をする代りに静かな点頭てんとうを送っていた。が、内心はこの間も絶えず二つの問題を解決しようとあせっていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
葉は分裂ぶんれつしており、かぶから花茎かけいが立ち十数センチメートルの高さで花をけている。花は点頭てんとうして横向きになっており、日光が当たるとく開く。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
コックリと点頭てんとうして是認した彼の眼の中には露がうるんで、折から真赤に夕焼けした空の光りが華〻はなばなしく明るく落ちて、その薄汚い頬被ほおかむりの手拭、その下から少しれているひたいのぼうぼう生えの髪さき
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
妙子は黙って点頭てんとうして見せてから
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そしてその種名の cernua は点頭てんとう、すなわち傾垂けいすいの意で、それはその花の姿勢しせいもとづいて名づけたものだ。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
女の目も亦猫とすれば、のどを鳴らしさうにこびを帯びてゐる。主人は返事をする代りにちよいと唯点頭てんとうした。女は咄嗟とつさに(!)勘定台の上へ小型のマツチを一つ出した。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
滋幹は点頭てんとうしたゞけであったが
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
年とった支那人は気の毒そうに半三郎を見下みおろしながら、何度も点頭てんとうを繰り返した。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)