火光ひかり)” の例文
貴所方あなたがたは」と糸子を差し置いて藤尾ふじおが振り返る。黒い髪の陰からさっと白い顔がす。頬の端は遠い火光ひかりを受けてほの赤い。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一人の老人がうずくまっていた。一人の小男が種子ヶ島で、その老人を狙っていた。石壁から火光ひかりが射していた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二人の定紋を比翼につけたまくらは意気地なく倒れている。燈心がえ込んで、あるかなしかの行燈あんどう火光ひかりは、「春如海はるうみのごとし」と書いた額に映ッて、字形を夢のようにしている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
いまから二分にふん三分さんぷんまへまではたしか閃々せん/\空中くうちうんでつた難破信號なんぱしんがう火光ひかり何時いつにかせて、其處そこには海面かいめんよりすうしやくたか白色球燈はくしよくきうとうかゞやき、ふね右舷うげん左舷さげんぼしきところ緑燈りよくとう
真っ赤な火光ひかりの中を走ってくる影を見ると、明らかに、それは僧形そうぎょうの人だった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
滝は凍って音を立てず、時々崩れる頽雪ゆきなだれは、岩をも大木をも引き包んで、深々たる谷底へ落ちて行く。空には月なく星もなく、地上には一点の火光ひかりもない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、その視線の遥かかなたの、木立の間から一点の火光ひかりが、薄赤い色に輝いて見えた。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
血刀が群集の波の上に、火光ひかりを受けて輝いている。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)